隣の席の悪魔 〜あの頃は、明日が当たり前だった

合格発表

二月。

朝から落ち着かなかった。

窓の外。

白っぽい冬の空。

教室。

ざわざわした声。

でも、
全部遠い。

今日は。

空くんの、
合格発表の日だ。

◇

ガラッ。

教室のドアが開く。

その瞬間。

私は顔を上げた。

空くん。

いつもの顔。

でも、
少しだけ疲れてる。

空くんが、
隣に座る。

私は黙ったまま、
その様子を見ていた。

空くんは数秒黙って。

そして、
小さく言った。

「……受かった」

その瞬間。

胸がいっぱいになる。

「ほんと!?」

「ん」

「すごい!!」

嬉しい。

すごく嬉しい。

なのに。

胸の奥が、
ほんの少し痛かった。

だって。

本当に行っちゃうんだ。

県外。

遠くの高校。

もう。

一緒に走れない。

空くんが、
私に視線を向ける。

「……なんでそんな顔」

私は教科書を開きなおして、
笑った。

「嬉しいから!」

空くんは、
黙ったまま視線を逸らす。

その後、何も言わずに、
窓の外を見ていた。

◇

昼休み。

空くんの周りには、
人が集まっていた。

「空すげー!」

「おめでと!」

楽しそうな声。

私は少し離れた場所から、
ぼんやりそれを見ていた。

その時。

「星野」

低い声。

顔を上げる。

空くん。

いつの間にか、
目の前にいた。

「……なに逃げてんの」

「逃げてないし」

「嘘」

短い声。

見透かされてる。

私は視線を逸らした。

その時。

空くんが、
窓の外を見たまま言った。

「今日走る?」

私は瞬きをする。

「今日?」

「ん」

その声は、
なんか、
いつもより優しかった。

◇

夕方。

冬の空。

白い息。

私たちは、
いつもの道を走っていた。

でも。

今日は。

なんか違う。

嬉しいのに。

苦しい。

その両方が、
胸の中をぐちゃぐちゃにしていた。

「空くん」

「ん?」

「おめでとう」

走りながら、
私は小さく言った。

空くんは前を向いたまま。

「……さんきゅ」

短い返事。

でも。

なんか。

その横顔から、
目が離せなかった。

◇

走り終わったあと。

私は空を見上げる。

冬の夜。

星。

「……星野」

「ん?」

空くんは、
少し考えてから言った。

「泣くなよ」

「泣いてないし!」

空くんは目を細めた。

「……そ」

短い声。

でも。

その言い方が、
“分かってる”
みたいで。

私は余計に、
泣きそうになった。
< 35 / 55 >

この作品をシェア

pagetop