隣の席の悪魔 〜あの頃は、明日が当たり前だった

星空ランニング

「……気が向いたら」

空くんは、
前を向いたまま言った。

私は、
にやっと笑う。

「じゃあ明日ね!」

「は?」

「気が向くでしょ?」

「勝手に決めんな」

「決定でーす!」

「……うるさい」

明日も、絶対走る。

◇

翌日。

放課後。

窓の外には、
夏みたいな入道雲。

昼の熱が、
まだ少し廊下に残っていた。

「空くーーーん!!」

帰ろうとしていた空くんの前に、私は立ちはだかった。

「走るよ!!!」

「……は?」

「昨日約束した」

「してない」

「した!」

「してない」

「したってば!」

空くんは、
ふっと、ため息をつく。

「……10分だけ」

……よしっ。

「やったーー!!!」

「声でか」

空くんは、
やれやれって顔で靴を履き替えてる。

でも。

私、知ってるもん。

空くんが、
今日もちゃんとジャージを持ってきてること。

◇

それから。

私と空くんは、
一緒に走る日が増えた。

毎日じゃない。

でも。

私が誘う日は、
必ず。

「今日走る?」

「気が向いたら」

って言うくせに。

結局、
来てくれる。

……変な人。

◇

夏。

夕方。

セミの声が、
少しずつ減っていく時間。

走り終わる頃には、
空はもう暗くなり始めていた。

「はぁぁ……
疲れたぁ……」

私は校庭のフェンスにもたれながら、空を見上げる。

その瞬間。

「……わ」

星。

いっぱい。

紫色の空に、
小さな光。

昼間あんなに明るかった空とは、
別の世界みたいだった。

風が吹く。

汗ばんだ肌に気持ちがいい。

「星野」

「ん?」

隣を見る。

空くんも、
夜の空を見上げてた。

珍しい。

ぼーっとしてる。

「空くん、
空見るんだ」

「失礼だな」

「勉強しか興味ないかと思った」

「偏見」

「へへ」

私の小さな笑いのあと。

空くんが、
上を向いたまま言った。

「……好きなんだよ」

「え?」

今。

何て――

「星」

空くんは、
上を見たまま言う。

「綺麗じゃん」

あ。

なんだ。

……びっくりした。

「なにその顔」

「別にっ!!」

慌てて目を逸らす。

やばい。

変な勘違いした。

すると。

隣から、
小さな声。

「星野の苗字、
お前っぽいな」

「え?」

「星、好きそう」

私は笑った。

「空くんの方が、
空って名前っぽいよ」

沈黙。

風。

遠くで鳴いてる、
虫の声。

「……初めて言われた」

小さく笑う声。

私は隣を見る。

空くん。

笑ってる。

その横顔が、
夜に溶けそうなくらい静かだった。

「……帰ろ」

突然こっちを向いた空くんに、見てたのがバレたかと思って焦る。

 
星空。

隣を歩く、
小さな背中。

風が吹く。

空くんは、
前を向いたまま歩いてる。

私は少しだけ笑って、
隣に並んだ。
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