神代課長は、気づかない──私が、その手に捕らわれていることに

朝のオフィスで


朝の陽射しが、デスクの上に柔らかな影を落としている。

私の見つめる先で、神代(かみしろ)課長が、いつものように無駄のない動きでパソコンを立ち上げる。

そのしなやかな指先が、静かにキーボードを叩く度に、規則正しい音がオフィスに緩やかに響く。

私は資料をまとめながら、気づけば、知らず知らずのうちにその手の動きを目で追っていた。

しわひとつない白いワイシャツの袖口から覗く、銀色の腕時計が嵌った引き締まった手首。ペンを握る力の入れ加減で、わずかに動く手の甲に走る血管。

どれも、本人はきっと自覚していない。

「……おはよう」

低く落ち着いた声に目をやると、神代課長がこちらを見ていた。

「今日の会議資料、あとで確認するから」

淡々とした口調で必要なことだけを話す、いつもの神代課長。

私は「はい」と答えて、資料に目を戻すふりで、 その手が書類に触れるのを、また見てしまう。


──こんな風に私が見つめていることを、課長は何も知らない。

そして、気づくこともない。



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