犬猿アイドル、活動中!
今日も“仲良し”営業中!
 まぶしいスポットライトが、ステージいっぱいに降り注ぐ。

「みんな、今日は来てくれてありがとう!」

 僕――朝比奈湊(あさひなみなと)がマイクを持って手を振ると、会場いっぱいに歓声が広がった。

「きゃーっ! 湊くーん!」

 名前を呼ばれるたび、胸の奥がくすぐったくなる。
 この瞬間は、何度経験しても嫌いじゃない。

「叶斗くーん!」

 隣では、相方の天宮叶斗(あまみやかなと)が、いつものように完璧な笑顔を浮かべていた。
 明るい照明も、ファンの歓声も、ステージの空気そのものも。
 ぜんぶ自分の味方にしてしまうような人だ。

「みんな、大好きだよー!」

 叶斗が投げキッスをすると、会場中が黄色い声で包まれる。
 ……さすが。
 こういうところは、本当に悔しいくらい“アイドル”なんだよな。

「湊もなんか言って!」

 急に話を振られた。
 一瞬だけ目を見開いたけれど、僕はすぐに営業スマイルを浮かべる。

「僕の方が、みんなのこと大好きだよー!」

 客席から、さらに大きな歓声が上がった。
 すると叶斗が、満足そうにうなずく。

「よし、百点!」
「採点しないで」

 小声で返すと、叶斗が吹き出した。
 その様子を見たファンの子たちが、さらに盛り上がる。

「かなみな仲良すぎー!」
「最高ー!!」

 ……まあ。
 そう見えるなら、アイドルとしては大成功なんだけど。 

「じゃあ最後に、みんなと記念写真撮ろっか!」

 叶斗がそう言って、自然な動きで僕の肩に腕を回した。
 ぴたり、と距離が縮まる。

「いくよー! せーの!」

 シャッター音。
 ファンの子たちの歓声が、会場いっぱいに響いた。

「また会おうねー!」

 僕たちは最後まで笑顔で手を振りながら、ステージ袖へはけていく。
 そして。
 ライトの当たらないバックステージへ入った瞬間。
 するり、と。
 叶斗の腕が僕の肩から離れた。
 同時に、僕も営業スマイルを消す。

「……急に肩組むのやめてくれる?」
「写真映えしたからよくない?」
「心の準備って言葉知ってる?」
「アイドルにそんなもの必要?」
「ある」
「ない」

 即答だった。
 僕はじとっと叶斗を睨む。
 すると叶斗も、負けじと見返してきた。

「ていうかさっき、話振ったのに間があった」
「急だったから」
「対応力つけろよ」
「そっちこそ急に採点しないで」
「でも百点だったじゃん」
「問題はそこじゃない」
「めんどくさ」
「誰のせいだと思ってるの」

 バチバチ、と目に見えない火花が散る。
 その横を通りかかったスタッフさんが、くすっと笑った。

「ほんと仲良いよね〜、2人」
「「どこが?」」

 声がぴたりと重なる。
 スタッフさんは「あはは」と笑いながら去っていった。
 僕は小さくため息をつく。
 世間では、“かなみな”は最強バディアイドルとして売っている。
 でも訂正したい。
 これはただの、盛大なイメージ戦略だ。
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