ぽっちゃりな私を好きになるなんて、国宝級イケメン俳優おかしくないですか!?


 いやいや。

 落ち着け。

 相手、国宝級イケメン。

 住む世界が違う。

 しかも、芸能界トップ俳優。

 あたしはぽっちゃり枠。

 ドラマでは《親しみやすい女友達》担当。

 恋愛枠じゃない。

(……慣れてるし)

 胸の奥が、ちくっとした。

 格差が大きすぎる!




 その時、

「じゃあ、行く?」

 湊が自然に言った。

「え?」

「制作会議」

 さらっと爆弾発言。

「今から殴り込み」

「言い方!!」

 でも。

 次の瞬間。

 笑ってしまった。

 なんか。

 気が楽になる。




 ――数時間後。

 制作会社。

 会議室。

 空気、最悪。

「ですから」

 代理人が笑顔で言う。

「ドラマ化の際には、多少の変更は当然でして」

「多少?」

 あたし、笑顔。

 でも低音。

「どこが多少?」

 台本を机に置く。

 バン。

「恋愛相手変わってるんだけど?」

 しーん。

 空気が凍る。

「佐藤さん、それは視聴率の問題が――」

「視聴率ぅ?」

 極道娘モード発動。

「じゃあ聞くけど」

 指を一本立てた。

「なんで原作ファンが好きなとこ消したの?」

 相手が詰まる。

「冷凍庫シーン」

「一緒に命をつないだから恋になるんでしょ?」

「そこ改変したら別作品じゃん」

 しん。

 誰も言い返せない。

 その時。

「俺も同意見です」

 湊が静かに口を開いた。

 全員が振り向く。

「原作読んで、この作品に出演決めたんで」

 低くて落ち着いた声。

「恋愛軸、変えるなら別物です」

 空気が変わった。

 主演が言う。

 重い。

 めちゃくちゃ重い。

 代理人が焦り始める。

「し、しかしスポンサーが……」

 その時。

 会議室の隅で、小さな声がした。

「あの……」

 振り向く。

 そこにいたのは――。

 地味な服。

 少し猫背。

 緊張で顔が真っ赤な女性。

 両手で資料をぎゅっと握っている。

「す、すみません」

 震えてる。

「原作者の……春野です」

 ――えええええええええええ??!!

 推し!

 推し作家登場!!!!!!!

 実在したんだ。

 しかも、

 めっちゃ小動物。

 かわいい。

 守りたい。

 春野先生は、小さな声で言った。

「その……」

「私なんかが言うことじゃないって思って……」

 下を向く。

「ドラマにしていただけるだけで、ありがたいので……」

 …………。

 ダメ。

 それ。

「ダメです」

 気づいたら、口が動いてた。

 全員がこっちを見る。

 あたしは、春野先生を見る。

「春野先生!!」

 まっすぐ言う。

「先生の作品、めっっっっちゃ良かった!!」

 春野先生が固まる。

「だから」

 拳を握る。

「ちゃんと大事にされるべき」

 沈黙。

 その瞬間。

 隣で。

 湊が、ふっと笑った。

 そして。

 誰にも聞こえないくらい小さな声で。

「……やっぱり、オレ、こいつ好きだな」

 え?

 今。

 なんて言った?
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