無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
覚悟の答え
現場からの戻り道、幹人は信号待ちの歩道で足を止めた。
幹人の前を若い夫婦と小さな子どもが歩いている。父親が抱き上げると、子どもはきゃっと声を上げて笑い、母親がそれを見て微笑んだ。
何気ない光景だ。特別でも珍しくもない。それなのに、なぜか目を離せなかった。
子どもが父親の肩に頬を寄せ、母親の指を掴もうとして空を切る。三人の間に流れる空気は穏やかで、あたり前で、完成されている。
(……家族、か)
ふと、そんな言葉が頭を過る。
自分とはまだ関係のないものだと思ってきたはずの風景なのに、なぜか今日は違った。
心から大切と思える人ができたからなのか。これまで友人でも恋人でも、深く関わる前に自分から距離を置いてきた。長く続く関係なんて、自分には縁がないと思っていた。
けれど、天音のことを思うと、その考えが揺らぐ。彼女となら、あの穏やかな空気の中に自分も立てるのかもしれない。ふと、そう思った。
信号が変わり、家族は人混みに紛れていく。
その背中を見送ってから、幹人は小さく息を吐いた。
一週間前の天音との会話が遅れて蘇る。
『結婚かぁ……。なんだか、遠い世界の話みたいです』
自分で言った言葉だ。あのときは本心だった。今も、嘘ではない。