割れ物
割れ物
ガチャン!
流しで皿を持ち上げると、下の皿が一緒について上がってきた。
たまにあるよね、そういうこと。
だけど、私が気づいたのは、着いて来た下の皿が自重で落下して、その下のガラスコップに当たってる割れた音を聞いた時だった。
不可抗力... ... 。
ショックだ。
「また割ったの?」
割れたコップを集めていると、後ろから弟がバカにしたように声をかけてきた。
「だって... ...」
完全な不可抗力だった。
どうすることも出来なかった。
「こないだもさ、俺がゆうなに貰った誕生日プレゼントのマグ割ったじゃん」
「うう」
「もっとよく見て洗いなよ」
「あんた、茶碗なんてテーブルに置きっぱなしにするだけで、流しに持ってきもしないのに、失敗ばっかあげつらうのやめて」
すると、弟はなんだか自慢げに言った。
「俺ゆうなに自分で割ったって言ったんだぜ」
それを聞いて、心底腹が立つ。
「それ、何の意味があるの?」
姉の失敗を隠す優しい弟気取りに、重ねて腹が立つ。
「何でって... ...姉ちゃんが割ったって言って、姉ちゃんがゆうなの恨みを買ったら可哀想じゃん」
「へッ!あんた、ただの家事する男アピールじゃん。ホントウザイ。そんな小さい嘘ばっかついてポイント稼ぎとか」
私が心底軽蔑した視線を向けると、弟は驚いたように目を泳がせた。
「嘘は言い過ぎだろ!?」
「ほんとじゃないこと言うのは嘘でしょ。ほんとじゃないこと言う奴は嘘つきっていうの、知ってた?」
喋りながらも、茶碗を洗い続ける。
食洗機が欲しくてたまらないが、狭いアパートではそれも難しい。
ガチャガチャ音を立てて洗い続ける。
洗い終わった茶碗を重ねていると、弟はなんとか反撃を思いついたようだ。
「姉ちゃん、今もさ、手元見てねーよな。
茶碗が着地する前に手から視線が離れてる!
次割ったら、ゆうなに姉ちゃんがいっつも茶碗割るっていうからな!」
弟は謎の捨て台詞を言って出かけて行った。
「あ〜ホント腹立つ!」
子供っぽいを心底バカにしながら、割れたグラスをチラリと見た。
その週末、駅の近くの雑貨屋で弟の彼女ゆうなちゃんに会った。
「あ、お姉さん」
ゆうなちゃんは可愛い。
顔は普通だけど、性格も普通。アクがなく素直。要するに大好きだ。
彼女は食器コーナーの前で、プラコップを吟味している。
「あっ、ねえねえ、それってもしかして和樹の?」
私も、可愛い猫の箸置きを手に取ってみる。
「そうなんです」
「ごめんね、私が割っちゃったの」
「あれ、和樹、俺が割ったって言ってやった!ってドヤってたよ?」
そういうと、ゆうなちゃんは面白そうに笑った。
「そうなんですよ、後から、あれ実は姉ちゃんが割ったって言って、ホント、なんであんな小さい嘘つくのかわかんないですね」
「ああ、わかる、誰が割ったかより、そっちの方がポイント下がっちゃうよね」
言いながら、箸置きを元に戻すと、ゆうなちゃんはちょっとびっくりしたような顔をしている。
だけど、本当に一瞬。
そのあとは本当に何事もなくゆうなちゃんと別れた。
買った商品をそっとレジに置くゆうなちゃんを店の外から見て、弟から『茶碗が着地する前に手から視線が離れてる』と言われたことを思い出した。
私は、手に持ったコップを、そっとガードレールに置く動きをしてみた。
手を見たまま。


