スーパー派遣令嬢は王宮を見限ったようです ~無能上司に『お前はもう不要だ』と言われたので、私は故郷に帰ります~

19 襲撃犯の事情

 馬車に適当な魔物の死体を詰め込んで爆発させるという作戦は、無事成功した。

 自分たちが身に着けていたチョーカー型爆弾の威力を目の当たりにした男性3名は魂が抜けたようになっていたが、そのおかげで、その後の取り調べは拍子抜けするほどあっさりと進んだ。

 彼らはそれぞれ別々の人間から指示を受け、数日前に初めて会ったという。
 若い2人は元々王都の平民の出で、親と折り合いが悪く、ほとんど路上で生活していた。
 犯罪行為の使い走りのような事も以前からやっていたそうだ。

 一方年かさの男性は、少々事情が異なっていた。

「…娘を誘拐されて脅されていた、と…」

 身体強化魔法で街まで走り、シルバーウルフの運び屋に爆発現場の事後処理を任せ──『私とマーカスは『大怪我で意識不明の重体』って事にしておいてください』と笑顔で告げたら彼は天を仰いでいたが、多分上手くやってくれるだろう──襲撃犯3名を連れて屋敷に戻った後。

 関係者立ち会いの元、私は改めて、3人の事情聴取を行っていた。

 応接間の上座に父と母。
 その正面に襲撃犯の3人。
 私とマーカスはそれぞれ1人掛けのソファに座り、両者の間に入る位置でテーブルを囲んでいる。
 シルクにはユーフェミアへの言伝を頼んだため、まだ屋敷には帰って来ていないが、シフォンは専用のミニソファの上だ。
 私の背後には御者のエドガーが控え、いつでも証言を補足できるよう準備していた。

 なお、馬車を引いていた馬たちは既に厩舎に戻っている。
 爆発を目の当たりにしたのに動揺する事も無く、身体強化魔法で走る私たちの横を平然と並走し、自分から厩舎へ戻って行った。
 流石はうちの馬たちだ。

「娘さんは、いつ頃居なくなったのですか?」
「4年半前だ。魔法道具の技術学校を卒業して、王都の研究所に勤務し始めた矢先に行方不明になった」

 年かさの男性の名前は、デリック。
 以前は王都を中心に冒険者として活動していたが、6年前に魔物との戦闘で左足を膝下から切断する大怪我を負い、引退を余儀なくされた。
 その彼に義足を作ったのが、娘のリサ。
 若いながら魔法道具作成の技術は折り紙付きで、デリックの義足は技術学校在籍当時の彼女の最高傑作だそうだ。

「学生でこれだけの技術を…すごいな」

 マーカスの目が異様に輝いているが、とりあえず無視する。

「娘さんが働いていた研究所に、確認や相談は?」
「もちろんしたさ。王都の警備隊にも、冒険者ギルドにも捜索願を出して、俺も王都を駆けずり回った」

 だが、娘の行方は分からないまま。

 そのうち警備隊は捜索規模を縮小し、研究所は『何か分かったら知らせてください』と匙を投げ、冒険者ギルドでも捜索依頼を受けてくれる者は居なくなった。

 それでも諦めずに捜索を続けるデリックの前に、ある日、見知らぬ男がやって来た。

 ──お前の娘は、我々が保護している。

 そう告げた男から渡されたのは、明るい麦わら色の髪の毛一束。
 娘と同じ色と質感の髪、しかも失踪当時と同じ三つ編み。
 娘のものだと確信するのに時間は掛からなかった。

「…別人のもの、という可能性は無かったのですか?」
「………その後、本人に会ったんだ」
「娘さんに?」
「ああ」

 男に言われるがまま、目隠しをした状態で馬車に揺られて連れて行かれた先。
 窓一つ無い地下室のような部屋で、デリックはリサと再会した。

 長かった髪は、それこそ三つ編みを根元から切り落としたように不揃いな短髪になり、元々日焼けしにくい肌はさらに青白くなっていたが、確かに娘のリサだった。

 本来ならば会わせる必要は無いが、デリックの義足の定期整備は自分にしか出来ないからというリサの主張を汲んだのだ、と、男は告げた。

 リサはデリックの義足を整備し、私は大丈夫だから心配しないで、と囁いて──屈強な男たちに無理矢理引き離され、親子はまた離れ離れになってしまった。

「…それ、『娘を保護している』じゃなくて『拉致監禁』じゃ…?」
「私もそう思います」
「……ああ」

 マーカスの突っ込みに私が同意すると、デリックは悲痛な表情で頷いた。

「どう考えても犯罪だ。だが…どうする事も出来なかった」

 強引に自宅へと送り届けられたデリックは、『娘のためにも、我々の命令に従え』と男に告げられた。
 娘を人質に取られたのだ。

「なるほど…」

 そうなると、デリックには男に従う以外の選択肢が無くなる。

 娘が生きている保証が無いなら話は別だが、その後、年に1回、義足の整備という名目で娘との面会は繰り返され、彼女は生きていると証明され続けた。
 『動きを補助するパーツが出来た』と発信機を付けられたのは、1ヶ月前の面会の時だそうだ。
 なおその発信機は無効化した上で、マーカスが後生大事に持って帰って来ている。

「…色々な事をした」

 ぽつり、デリックが呟いた。

「運び屋のような事も、護衛のような仕事も……今回のように、娘に顔向けできないような事も。──『死ね』と言われたのは初めてだったが」
「…そうですか」

 私が相槌を打つと、デリックは疑念を含んだ目でこちらを見た。

「…あんたらは、貴族だろう? 平民の犯罪者の言葉を信用するのか?」
「全面的に信用しているわけではありませんが、嘘かどうかは対面していれば分かりますから」

 見た限り、デリックは少なくとも『彼から見た事実』を話している。嘘は言っていない。

「──とりあえず、娘さんの行方については私たちの方でも調べてみようと思うのですが…よろしいですか? 父上」
「無論だ。存分にやると良い」

 父は絵に描いたような子煩悩だ。
 娘を心配する気持ちも痛いほど良く分かるだろう。話を振れば、据わった眼で即座に頷いた。

「本当か!?」
「ええ。娘さんを拉致監禁している犯人と、デリックたちを使って私たちを狙った犯人には繋がりがあるはずですから」

 拉致監禁犯の調査をするのは、私たちにとっても利がある。
 それっぽい理由を並べて私が頷くと、デリックは深々と頭を下げた。

「恩に着る…!」

 …多分、放っておいてもマーカスあたりが勝手に彼の娘の行方を調べ始めるだろうから、初めからアンガーミュラー家として動いていた方が楽だ、という理由は胸の内に仕舞っておく。

「あと、貴方がたの今後についてですが…」

 私が言った途端、男性3人は覚悟を決めたような顔になった。


「うちの農場で働いてもらう、というのはいかがでしょう?」

『…………は?』


 間の抜けた声が応接間に響く。

 至極真面目な提案なのだが、正面のマーカスは眉間に手を当てているし、父は難しい顔で天井を見詰め、母はそっと視線を逸らしている。何故だろうか。

「…あー、一応訊くが、クリス。理由は?」

 父の問いに、私は素直に答えた。

「農場の従業員に、里帰りを希望する者と介護休暇を申請している者、出産による休暇を申請している者が居ます。家畜たちの出産ラッシュも始まりますし、今のうちに戦力を補充しておいた方が良いかと」

 アンガーミュラー家が運営している農場は規模が大きい。
 従業員が多い分、長期休暇を申請する者も多い。常にある程度の余剰戦力は確保するよう努めているが、今回は一時的に少し足りなくなる見込みだった。
 このタイミングで労働力が確保できるのは、大変ありがたい。

「………お前たちを襲撃しようとした事については、どう処理するつもりだ?」
「未遂ですし、本人たちの意志でもありません。このまま、犯人は見付からなかった事にすれば良いのでは?」

 自爆テロを装った爆発は既に起こしてあるので、裏で糸を引いている人物も実行犯3名は死んだと思っているはずだ。
 だから、彼ら自身を罰する必要は無い。

「しかしだな」
「父上、一応お断りしておきますが──」

 なおも渋面を作る父に、私はにっこりと笑って見せた。


「私たちを害しようとした()()()()()については、許すつもりはありませんよ。これから徹底的に調べ上げて、ギッチギチに絞り上げます」


 そりゃあもう、徹底的に。
 ゴマ油を搾る装置なんて目じゃないくらいに。

「……」

 視界の端で、マーカスがそっと両手を合わせるのが見えた。





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