フラワーリング
「あの」

気付けば、もう一度声をかけていた。

「実は、一つお願いがあって……」

橘さんが足を止める。

「今度、花をモチーフにしたブライダルアクセサリーを作ってみたいと思ってるんです。」

少し照れくさくなって笑う。

「でも、花のことは詳しくなくて。」

「もし、お時間がある時でいいので……少し教えていただけませんか?」

少しだけ間があった。

お願いしすぎだったかな。

そう思った、その時。

「それなら」

橘さんが静かに笑う。

「僕の店に来ますか?」

「え?」

思わず聞き返す。

「写真で見るより、本物を見た方が分かりやすいです。」

「市場から戻る午後なら、ゆっくり見られますよ。」

思ってもみなかった返事だった。

「……いいんですか?」

「もちろんです。」

そう言って橘さんはポケットからスマートフォンを取り出した。

「日程を決めたいので、連絡先を交換しませんか?」

「あ、はい」

慌てて自分のスマートフォンを取り出す。

交換したばかりの画面に、自分の名前が表示される。

「市場が休みの水曜日なら、ゆっくりご案内できます。」

「水曜日……」

スケジュールを確認すると、午後からなら予定は空いていた。

「私も午後なら大丈夫です。」

「じゃあ、来週の水曜日で。」

「あ、よろしくお願いします。」

その場で日程まで決まり、私はスマートフォンをしまう。

仕事の打ち合わせ。

ただ、それだけ。

……のはずなのに。

連絡先がひとつ増えただけで、少しだけ胸が落ち着かなかった。
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