煉瓦坂の少し奇妙なX'mas
「じゃぁ、帰ろう」
 せかっくしんみりしてたのに。思わず見上げると、環は心なしか満足そうだった。いつも無表情なのに珍しい。
「ああ、帰ろう。環、ありがと。来年はもうちょっとましにやりたい」
「無理だ」
「酷くない?」
 鼻で笑わなくてもいいじゃないか。そう呟きつつ店の扉から一歩外に出た煉瓦坂は一段とシンと冷え、見上げれば月が綺麗に登っていた。それがなんだかとても特別に見えた。昨日今日はすっごく大変だった。でもこうして今日は終わって、また明日がやってくる。そんな毎日は充実していて、きっと、とても幸福なことなんだろう。
 そう思っていれば。ふいに何かが月を横切る。それはサンタさんかもしれないし、ドローンかもしれないし、それは、まあどうでもいいや。そんなことよりもう腕も上がらないほどクタクタだ。
「じゃよいお年をお迎えください」
 けど思わずプッと噴出した。環にとってはクリスマスじゃなく年末だよな。
 珍しく軽く手を振る環に振り返そうと手を上げようと試みているうちに、環はすっかり振り返り、すたすたと歩きだす。これもいつもだ。そうだな、来年もまた、よろしく。
「じゃあまた明日。クウェスに寄るよ、休みにしてもらったからさ」

 扉の外でそんな声がして、鍵がカチャリとしまる音がして、がさごそという音がそこかしこから聞こえ始める。
「さて、みなさん。智ちゃんが帰りましたよ~」
「はーい」
「わーい」
 小さなさざめきが再び店内に広がる。
「今日はたまちゃんがいるから、智ちゃん送っていかなくていいよね」
「いいんじゃない?」
「智ちゃんったら、ぼくらを閉じ込めてパーティしようとするなんてひどいぞ!」
「たまちゃんがあけてくれたからいいじゃん。もう通れるよー」
 何かがするするとバックヤードの扉を通り抜ける。
「でもー」
「じゃあ、ぼくらもパーティをはじめましょう」
「クリスマスじゃないんでしょ?」
「お年賀っていってたー。お米とか、お酒とか、たまちゃんがくれたし」
「まあいいや、かんぱーい」
「かんぱーい」
 そうしてバックヤードはピカリと輝いた。ひっそりと。

Fin
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