ORANGE×BOY
周囲からの「感じ悪い」という視線と、クラスの男子たちの妙な連帯感。
それらの板挟みになりながら、咲良の精神メーターは日に日にすり減り、いよいよレッドゾーンへと突入しかけていた。
毎日繰り返される攻防戦に、息継ぎを忘れたかのような深いため息をつく。
そんな、ある日の昼休みだった。
やはり、チャイムの余韻が消えるよりも早く、教室の前に彼が現れた。
今日も懲りずに、咲良の日常を侵略しにきたのだ。
咲良は、自分の限界を知らせるアラートの音を聞きながらついに重い腰を上げた。
「……一回だけですからね」
「え?」
これまでの鉄壁の拒絶が嘘のように崩れたからか、綾瀬先輩は珍しく、綺麗な目をパチパチと瞬かせた。
咲良は胸の前でガッチリと腕を組み、これ以上ないほどむすっとした、不機嫌を絵に描いたような顔のまま条件を突きつける。
「一回だけ。今日この一回だけです。一緒にご飯を食べたら、明日からはもう絶対に、私の教室には来ないでください。それが条件です」
「マジで?」
「はい。嫌ならこの話は無しです」
「やった!!」
綾瀬先輩は、子供がずっと欲しかったおもちゃを買い与えられた瞬間みたいに、ぱっと顔全体で表情を輝かせた。
そのあまりに無邪気で純粋な喜び方に、咲良の周囲に集まっていた女子生徒たちが「きゃー!!かわいすぎるっ……」と再び小さくざわめき始めているが、先輩はそれどころではないらしい。
そのストレートな感情の出し方が、なんだか本当に無害な生き物のように見えてしまって、咲良はほんの少しだけ、頑なに尖らせていた毒気を抜かれるのを感じていた。
悔しいけれど、この人の前だと、自分のひねくれた防衛本能がうまく作動しなくなってしまう。
そんな咲良の一大決心に、特等席の観客である茉那は、今にも机を両手でばんばんと叩き出しそうな勢いで身を乗り出してきた。
「ええええ!? 何その急展開!? 咲良、あんたそれ、後で絶対全部私に白状しなさいよ!?」
「白状も何も、ご飯食べるだけだってば」
「なんでよ!? あの綾瀬先輩とランチデートで何もないわけないじゃん!!」
「なんでも!……とにかく、さっと食べて、さっと戻ってくるから」
咲良は茉那の執拗な尋問から逃れるように、そして教室中の好奇心に満ちた視線を振り切るように、逃げるように椅子から立ち上がった。
これが、咲良の平穏を死守するための最初で最後の妥協だった。