世界最強の総長は、孤独な超絶美少女を世界の果てまで連れ去る。

名前

翌日。

詩織が校門を出ると、そこには昨日と同じ黒髪の青年が立っていた。


「よう。」


「……あなた誰よ。」


「昨日会っただろ!?」


「昨日……野生動物なら何匹か見かけたわね。」


「野生動物!?」


煉夜はショックを受ける。

まさか人間以下の認識をされていたとは。


「俺だよ、轟煉夜。」


「昨日名前聞けなかったから。今日は俺から名乗る。」


詩織は数秒見つめる。


「そう。」


「じゃ。」


スタスタと歩き去る。


「待て!」


「送る!」


「必要ないわ。」


「危ないだろ!」


「昨日危険だったのはあなた達のせいよ。」


「それに送迎は事足りてるわ。」


「ぐっ……。」


あえなく撃沈。



*********************



放課後。

校門前。

煉夜は今日も待っていた。


「よう。」


詩織はため息をつく。


「暇なの?」


「いや、忙しい。」


「じゃあ早く帰りなさいよ。」


「でも会いたかった。」


「意味が分からないわ。」


詩織は歩き出す。

煉夜も少し距離を空けてついていく。


「ついて来ないで。」


「送るだけだ。」


「必要ないわ。」


「危ないから。」


「昨日も言ったけど、危険の原因の半分はあなた達よ。」


「ぐっ……。」


「それに……」


その時だった。

路地裏から数人の男が飛び出してくる。


「いたぞ!」


「氷室家の令嬢だ!」


全員が黒のスーツを着て黒いサングラスをかけている。

異変を察知した煉夜はすぐに詩織の前へ立つ。


「下がってろ。」


「すぐに終わらせる。」


「……。」


詩織は黙って見ていた。

十数秒後。

全員が地面に転がる。

煉夜は制服についた埃を払う。


詩織は呆れたように言う。

「また暴力。」

「もっと効率的な方法があるわよ。」

「でも。」

煉夜は笑う。

「お前を守れた。それで十分だ。」

その言葉に詩織は少し黙る。


「ケガないか?」


「……ないわ。」


「よかった。」


その笑顔には見返りを求める様子がない。

詩織は少しだけ考える。

(また助けた。)

(恩を売るためでもない。)

(見返りも要求しない。)

(……本当に理解不能。)

煉夜は照れくさそうに頭をかく。

「そういや。」

「まだ名前聞いてなかったな。」

「嫌ならいい。」

「いつか教えてくれたら嬉しい。」

そう言って背中を向ける。

「今日はもう帰る。」

「じゃあな。」

歩き出した、その時。

「……詩織。」

煉夜が振り返る。

「ん?」

詩織は相変わらず無表情のまま。

少しだけ間が空く。

「氷室詩織。」

「それが私の名前です。」

煉夜は目を丸くする。

「……!」

「詩織……。」

思わず笑みがこぼれる。

「いい名前だな。」

「……。」

「ありがとう。」

詩織は少しだけ目を伏せる。

「礼を言われることじゃないわ。」

「人として最低限の礼儀よ。」

「でも。」

煉夜は嬉しそうに笑う。

「教えてくれて、すげぇ嬉しい。」

そのあまりにも真っ直ぐな笑顔に、詩織は一瞬だけ言葉を失う。

(……そんなことで。)

(どうして、そんなに嬉しそうなの。)

「じゃ。」

彼女は少しだけ視線を逸らす。

「また明日。」

言った直後、自分で気付く。

(……また明日?)

今までなら「失礼するわ」とだけ言って去っていた。

煉夜は一瞬ぽかんとした後、顔いっぱいに笑みを浮かべる。

「おう!」

「また明日、詩織!」

詩織は振り返らずに歩き続ける。

その耳は、ほんの少しだけ赤く染まっていた。





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