私だけに見せる、彼の独占欲。
第3話 「視線の理由」
六月に入って、
私は少しだけ窓口に慣れてきた。
それでも、
主任の視線は相変わらず分かる。
顔を上げると、
遠くのデスクからこちらを見ている。
目が合うと、すぐ逸らされる。
気のせい……だよね?
ある日、若い男性のお客様が続いた。
笑顔で対応して、無事に手続きも終わる。
「ありがとうございました」
いつもより少しだけ、
自然に言えた気がした。
後ろに下がると、
同じ課の先輩がひそっと言う。
「最近、堂々としてきたね。
さっきのお客様、
ちょっと嬉しそうだったよ?」
「え、そうですか?」
その瞬間。
「……へえ」
低い声。
振り向くと、主任が立っていた。
「仕事、終わった?」
「は、はい」
主任は私の手元の書類を軽く見て、
それから一言。
「ちょっと来て」
え。
人気の少ない打ち合わせスペースに入る。
ドアが閉まる音が、やけに大きい。
「さっきの対応」
「何か、まずかったですか?」
「いや」
主任は腕を組んで、私を見る。
「楽しそうだったなって」
心臓がどくんと鳴る。
「え……?」
「よく笑ってた」
「それは、お客様なので……」
「うん。分かってる」
そう言いながら、少しだけ距離が近い。
「でもさ」
主任は、ほんの少しだけ声を落とした。
「他の男と楽しそうにしてるの、
あんまり見たくない」
……え?
言葉の意味が、すぐに飲み込めない。
「しゅ、主任?」
主任は一瞬だけ目を逸らして、
軽く息を吐いた。
「……ごめん。今の忘れて」
「……」
「職場だしな」
その言い方が、逆に本気みたいで。
「主任、もしかして……」
勇気を出して、聞く。
「ちょっとだけ、嫌でした?」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、主任の手が、
机の端に置かれた私の指のすぐ横に置かれる。
触れてはいない。
でも、逃げ場のない距離。
「新人のくせに、生意気」
低く笑う。
「……嫌に決まってるだろ」
頭が真っ白になる。
「だって俺、」
そこで言葉を止めて、
主任はまっすぐ私を見る。
「ずっと見てきたから」
配属された日から。
凹んでいた日も。
必死でメモを取っていた日も。
うまく言えないけど、胸の奥がざわつく。
「主任の前では……緊張するんです」
正直に言うと、主任は少しだけ目を細めた。
「じゃあ、慣れて」
一歩、近づく。
「……俺に」
空気が、少しだけ甘くなる。
廊下の足音が聞こえて、
主任はすっと距離を戻した。
「……ほら、戻るぞ」
何事もなかった顔でドアを開ける。
でも、去り際に小さく言った。
「今日の帰り、少し時間ある?」
振り返った私に向けられたその目は、
ほんの少しだけ、特別で。
心臓が、うるさい。
銀行の中はいつも通りなのに。
私の世界だけ、
少し変わり始めている。
私は少しだけ窓口に慣れてきた。
それでも、
主任の視線は相変わらず分かる。
顔を上げると、
遠くのデスクからこちらを見ている。
目が合うと、すぐ逸らされる。
気のせい……だよね?
ある日、若い男性のお客様が続いた。
笑顔で対応して、無事に手続きも終わる。
「ありがとうございました」
いつもより少しだけ、
自然に言えた気がした。
後ろに下がると、
同じ課の先輩がひそっと言う。
「最近、堂々としてきたね。
さっきのお客様、
ちょっと嬉しそうだったよ?」
「え、そうですか?」
その瞬間。
「……へえ」
低い声。
振り向くと、主任が立っていた。
「仕事、終わった?」
「は、はい」
主任は私の手元の書類を軽く見て、
それから一言。
「ちょっと来て」
え。
人気の少ない打ち合わせスペースに入る。
ドアが閉まる音が、やけに大きい。
「さっきの対応」
「何か、まずかったですか?」
「いや」
主任は腕を組んで、私を見る。
「楽しそうだったなって」
心臓がどくんと鳴る。
「え……?」
「よく笑ってた」
「それは、お客様なので……」
「うん。分かってる」
そう言いながら、少しだけ距離が近い。
「でもさ」
主任は、ほんの少しだけ声を落とした。
「他の男と楽しそうにしてるの、
あんまり見たくない」
……え?
言葉の意味が、すぐに飲み込めない。
「しゅ、主任?」
主任は一瞬だけ目を逸らして、
軽く息を吐いた。
「……ごめん。今の忘れて」
「……」
「職場だしな」
その言い方が、逆に本気みたいで。
「主任、もしかして……」
勇気を出して、聞く。
「ちょっとだけ、嫌でした?」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、主任の手が、
机の端に置かれた私の指のすぐ横に置かれる。
触れてはいない。
でも、逃げ場のない距離。
「新人のくせに、生意気」
低く笑う。
「……嫌に決まってるだろ」
頭が真っ白になる。
「だって俺、」
そこで言葉を止めて、
主任はまっすぐ私を見る。
「ずっと見てきたから」
配属された日から。
凹んでいた日も。
必死でメモを取っていた日も。
うまく言えないけど、胸の奥がざわつく。
「主任の前では……緊張するんです」
正直に言うと、主任は少しだけ目を細めた。
「じゃあ、慣れて」
一歩、近づく。
「……俺に」
空気が、少しだけ甘くなる。
廊下の足音が聞こえて、
主任はすっと距離を戻した。
「……ほら、戻るぞ」
何事もなかった顔でドアを開ける。
でも、去り際に小さく言った。
「今日の帰り、少し時間ある?」
振り返った私に向けられたその目は、
ほんの少しだけ、特別で。
心臓が、うるさい。
銀行の中はいつも通りなのに。
私の世界だけ、
少し変わり始めている。