まだ恋とは呼べない距離で
神崎理緒と副委員長
〜プロローグ〜
晃はソファに横たわると、コーヒーテーブルの上に置かれた本に目を向けた。
さっき、仕事帰りに本屋で見つけて買ってきた本だ。
本を手に取り読もうとするが、なんとなく手を止めてしまう。
ページは開かず、そのまま目を閉じる。
――あいつと出会ったのは、俺が中学三年、あいつが中学二年の春だった。
---
〜第1話 副委員長〜
――あの日、私はただ、図書委員の仕事をしていただけだった。
中学二年の春。
クラス替えがあって、
教室が変わって、
周りの人間関係も少しずつ入れ替わる。
この時期は、少しだけ気が楽だった。
みんなまだ、
互いに距離を測っている。
気を遣って、
空気を読んで、
無理に踏み込みすぎない。
だから、自分だけが頑張らなくていい気がする。
時間が経てば、
少しずつ輪ができていく。
自然に笑い合って、
自然に冗談を言い合って、
自然に距離が近づいていく。
でも理緒は、その「自然」があまり得意ではなかった。
図書室は静かだった。
騒がしい教室と違って、
ここでは無理に話を合わせなくても浮かない。
委員会の初日。
簡単な自己紹介のあと、役割決めが始まった。
委員長は三年生から一人。
副委員長は二年生から一人。
「神崎さんとか、いいと思う」
名前を呼ばれて、一瞬だけ空気がこちらを向く。
理緒は小さく瞬きをした。
嫌ではない。
ちゃんと見てもらえているんだ、と思った。
少しだけ、嬉しかった。
でも。
その感情を、そのまま受け取ってはいけない気がした。
期待されれば、
きっとまた、間違える。
「……私より、彼女のほうが適任だと思います」
そう言うと、
空気が少しだけ落ち着いた。
隣の女子が、そのまま副委員長に決まる。
拍手が終わる頃には、
もう誰も理緒を見ていなかった。
――それでいい。
「普通」が、一番楽だから。
役割決めのあと、貸し出しの説明が続く。
理緒は本棚の整理を任された。
背表紙を順番に揃え、
決められた場所へ戻していく。
ただそれだけの作業に、少し安心する。
間違えなければいい。
はみ出さなければいい。
そうすれば、きっと大丈夫だから。
「神崎さんって、やっぱりしっかりしてるよね」
近くで声がした。
振り向くと、隣のクラスの女子が笑っている。
「作業早いね。もうこんなに終わってる」
「……別に、大したことじゃないよ」
そう返すと、相手は「またまた」と笑った。
理緒も曖昧に笑い返す。
そのとき。
ふと、視線を感じた。
カウンターの向こうに、三年生の男子が立っていた。
目が合った。
――気がした。
けれど、相手はすぐに視線を逸らした。
理緒も、それ以上は考えなかった。
考えても仕方のないことに、
意味を探さないようにしている。
再び本棚へ視線を戻す。
少しだけ曲がっていた背表紙を、指先で整える。
まるで、自分の心を誤魔化すみたいに。
晃はソファに横たわると、コーヒーテーブルの上に置かれた本に目を向けた。
さっき、仕事帰りに本屋で見つけて買ってきた本だ。
本を手に取り読もうとするが、なんとなく手を止めてしまう。
ページは開かず、そのまま目を閉じる。
――あいつと出会ったのは、俺が中学三年、あいつが中学二年の春だった。
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〜第1話 副委員長〜
――あの日、私はただ、図書委員の仕事をしていただけだった。
中学二年の春。
クラス替えがあって、
教室が変わって、
周りの人間関係も少しずつ入れ替わる。
この時期は、少しだけ気が楽だった。
みんなまだ、
互いに距離を測っている。
気を遣って、
空気を読んで、
無理に踏み込みすぎない。
だから、自分だけが頑張らなくていい気がする。
時間が経てば、
少しずつ輪ができていく。
自然に笑い合って、
自然に冗談を言い合って、
自然に距離が近づいていく。
でも理緒は、その「自然」があまり得意ではなかった。
図書室は静かだった。
騒がしい教室と違って、
ここでは無理に話を合わせなくても浮かない。
委員会の初日。
簡単な自己紹介のあと、役割決めが始まった。
委員長は三年生から一人。
副委員長は二年生から一人。
「神崎さんとか、いいと思う」
名前を呼ばれて、一瞬だけ空気がこちらを向く。
理緒は小さく瞬きをした。
嫌ではない。
ちゃんと見てもらえているんだ、と思った。
少しだけ、嬉しかった。
でも。
その感情を、そのまま受け取ってはいけない気がした。
期待されれば、
きっとまた、間違える。
「……私より、彼女のほうが適任だと思います」
そう言うと、
空気が少しだけ落ち着いた。
隣の女子が、そのまま副委員長に決まる。
拍手が終わる頃には、
もう誰も理緒を見ていなかった。
――それでいい。
「普通」が、一番楽だから。
役割決めのあと、貸し出しの説明が続く。
理緒は本棚の整理を任された。
背表紙を順番に揃え、
決められた場所へ戻していく。
ただそれだけの作業に、少し安心する。
間違えなければいい。
はみ出さなければいい。
そうすれば、きっと大丈夫だから。
「神崎さんって、やっぱりしっかりしてるよね」
近くで声がした。
振り向くと、隣のクラスの女子が笑っている。
「作業早いね。もうこんなに終わってる」
「……別に、大したことじゃないよ」
そう返すと、相手は「またまた」と笑った。
理緒も曖昧に笑い返す。
そのとき。
ふと、視線を感じた。
カウンターの向こうに、三年生の男子が立っていた。
目が合った。
――気がした。
けれど、相手はすぐに視線を逸らした。
理緒も、それ以上は考えなかった。
考えても仕方のないことに、
意味を探さないようにしている。
再び本棚へ視線を戻す。
少しだけ曲がっていた背表紙を、指先で整える。
まるで、自分の心を誤魔化すみたいに。
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