まだ恋とは呼べない距離で

着信とカレンダー

夕食を終えて、ベッドで寛いでいると、机の上のスマホが震える。

理緒の胸がトクンと鳴る。
起き上がって、小さく息を吐くと、机の上のスマホを手に取り、画面を見る。

表示された名前に、指が止まる。

——藤森先輩。

目を瞑る。
息を整えてから、メッセージを開く。

«8/10はあいてる?»

短い一文。

理緒は、その文字をしばらく見つめる。

部屋のカレンダーの日付を確認する。
何も書いていない。

——大丈夫。予定はない。

そう思うのに、指が動かない。

一度、画面を閉じてスマホを机の上に戻すと、ベッドに倒れ込む。

ふぅと息を吐いて考える。

「……1ヶ月……後……」

目を瞑って気持ちを整える。

起き上がり、机の上のスマホを開くと、文字を打ち込む。

«あいてます»

送信。

画面を閉じて、すぐ机の上に裏返して置く。
なんとなく、画面を見るのが怖くて。
でも、スマホから目を離せない。

すぐにスマホが震える。
胸がキュッとなる。また息が乱れる。
スマホに手を伸ばし、通知を確認する。

——藤森先輩。

ゆっくりとメッセージを開く。

«8/10まで、隣町の中央図書館で森川花笑の企画展やってるらしいんだ。好きだったよね»

その一文に、目が止まる。

——覚えててくれてる。

以前、図書室で話したこと。

理緒はゆっくりと指先を動かす。

«好きです»

一度、そこで止まる。

読み返して、

数秒だけ考えてから、

«行ってみたいです»

と付け足す。

送信。

今度は少しだけ間が空く。

その間、意味もなく画面を見続ける。

やがて、

«じゃあ、14時に時計公園で待ち合わせでどう?»

通知が届く。

理緒は一度画面を閉じる。

そして、すぐにまた開く。

——14時。

頭の中で、当日の流れをなんとなく思い浮かべる。

特に問題はない。

なのに、すぐには打てない。

メッセージ画面を開いたまま、数秒。

«楽しみにしてます»

と打って、

少しだけその文字を見つめる。

——これでいい。

一瞬だけ迷って、

そのまま送信する。

すぐに返信が来る。

«図書館の後、カフェ行きたいんだけど、いい?»

その一文を読んで、

胸の奥が、わずかに揺れる。

理由は分からない。

ただ、さっきより少しだけ意識が向く。

カフェ。
図書館のあと。

頭の中で、並んで歩く光景がぼんやり浮かぶ。

すぐに打てるはずなのに、

また少しだけ時間がかかる。

«大丈夫です»

短く打って、送信。

やり取りはそこで途切れる。

理緒はしばらく画面を見たままになる。

やがて、ボタンを押して画面を消す。

——これでいい。

そう思う。

でも。

数秒後、もう一度スマホを開く。

特に新しい通知はない。

分かっているのに、

なぜか、何度も確認してしまう。

画面を閉じる。

今度はそのまま机に置く。

胸の奥に、さっきとは違う感覚が残っていた。

連絡先を知っている。
約束をした。

それだけのこと。

——なのに。

さっきよりも、少しだけ落ち着いている自分がいる。

理緒は小さく息を吐いてから、カレンダーの8月10日にしるしを付ける。
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