捨てられ才女はどうやら繁栄の切り札だったようです~新生活を謳歌していたら、記憶チートで追放先が大発展していました~

17.闇の会合

 とある夏の夜、ヴォルデの街道沿いでテントが張られ、小さな会合が持たれていた。
 参加者はヴォルデの商人など。その中には先日、コーデリアとの会合に参加した者もいる。
「トルドは不参加か」
「仕方ない。あいつは善良すぎる。それにコーデリア様へ諸手を挙げて賛同しているしな」
 酒を酌み交わしての議題は今後のヴォルデについてだった。
 コーデリアの施策に対し、ほとんどの住民は賛同している。だが、それだけでないから政治は難しい。
「それで――これからどうするんだ?」
「……黒服はミスリルのサンプルを確保して欲しいようだ」
 参加者のひとりが書状をひらひらと見せる。商人たちが頭を振った。
「鉱山や精錬施設から盗むのは無理だ。隙がなさすぎる」
「なら、自作自演で襲撃するしかない」
「それしかないだろう。はぁ……」
 参加者の気は重い。黒服というのは王都の使いのことだった。それらの黒服はいくらかの根を張り、地方を監視している。
 人数は少ないが、王都の西部や南部では相当荒っぽいこともするようだ。
「西ではまた商人が追放されたとか。黒服には逆らえん」
「コーデリア様は良いことをしていると思うんだがなぁ」
 そのことは参加者もよく分かっていた。あれほど有能で行動的な貴族など見たこともない。
 才女などと言われるだけはある。
 だが、それゆえにということを参加者は承知していた。
「王都の連中にはそれが気に入らんのさ。俺たち地方民のことなどお構い無し。気が乗らんにしても重んじなきゃいけないのは……王都の意向だ」
 黒服に従わなければどのような目に遭うか、考えたくもない。結局は公国という中の小さな存在に過ぎないのだから。
「コーデリア様には悪いが、いいところで王都に差し出すしか――」
「ミスリルを?」
「えっ、あっ!?」
 参加者が仰天して振り向く。そこにはいつの間にか、コーデリアと側近たちがいた。
「で、殿下……!?」
「なぜここに!?」
 コーデリアは柔和な笑みを浮かべながら、静かに佇んでいた。
「私は何でも覚えてしまいます。例えば、当人の自覚しない変化でも。変われば私は気が付きます」
「――っ!!」
「トルドさんが私の身を案じてくれた時、数人の様子が気になったもので。手がわずかに震えておりましたよ」
「そ、それだけで……」
 コーデリアはそれ以上、語らなかった。
 実際のところ、ディルダの兵である黒服がどう動くかなぞコーデリアには手に取るようにわかるのだが。
(ずっと王宮にいましたからね)
 邪魔をするつもりなら、ディルダはとうの昔にそうしている。
 黒服だけを動かしているのは、様子見だろう。
 コーデリアが根負けするのを待っているのだ。
 あるいはいいところで叩き落とすつもりか。
(まぁ、ディルダのことだから長期的なプランなんてないんでしょうけれど)
 自分がいなくなればディルダはさらに好き勝手に振る舞うだろう。
 そこに深謀遠慮なんてない。適当にその場の気分で決めるだけだ。
 コーデリアが黙していると、会合の参加者が並んで膝をついた。
 彼らの顔は一応に恐怖していた。
「あの、俺たちは――その!」
「皆まで言わなくても、私にはわかっています」
 凛としたコーデリアの声が参加者たちの心に染み込んでいく。
「あなた方の謀議は悪意あってのものではないと。王都の指令に従うしかなかった」
 コーデリアはルーインを伴い、テントを進む。
 誰も止められない。為政者の姿がそこにはあった。
 コーデリアは参加者のひとりが持っていた黒服からの書状を手に取る。
「この書状は私が預かります。王都が求めるミスリルも情報も私が用意しましょう」
「そ、それは……どのようなお考えで?」
「知らないほうが良いと思いますが。本当に知りたいのですか?」
「い、いいえ! 滅相もございません……!」
 穏やかに指摘したコーデリアに参加者が首をすくめる。
 そうだった。コーデリアは公爵令嬢で、公国の側妃なのだ。
 その彼女がこんな書状で何をしようとしているか、知らないほうが良い。
 コーデリアは少し低い声を出しながら、再び微笑んだ。
「私は王都と争う気持ちなどありません。不測の事態を避けたいだけです。ですから、皆は安心して私の指示に従ってくださいね」
「は、ははぁーー!!」
 会合の参加者は頭を伏せた。
 上なのだ、完全に。
 この御方は凄すぎる――とても地方の商人が太刀打ちできる人間ではない。
 この夜を機に、ヴォルデの表と裏の両方をコーデリアは掌握した。
 まずは万全を期すこと。待てば、機会はある。
(……そろそろ王都でも動きがある頃かしら)
 コーデリアが王都から去った穴はそう簡単には埋められない。
 もとい、引き継ぎもできずに王都から追い出されたのだ。いずれ支障が出てしまう。
 王都の綻びが表に出るのは間近だろう、とコーデリアは読んでいたのだった。
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