捨てられ才女はどうやら繁栄の切り札だったようです~新生活を謳歌していたら、記憶チートで追放先が大発展していました~

29.危惧

 あとはメルダへ打った布石。彼女は動くだろう。
「抜かれた予算を考えれば、相当なことができるんじゃないかしら」
「……確かに。数百人の兵を集めることはできるでしょう。しかし、それだけで何か大きなことができるとは……」
「まぁね、ハイリスクではあるわ」
 しかし読めないわけではない。
 今回の書類でディルダが裏工作の部署と予算が掴めた。
 ここから……オルドスの追加調査があれば、手はかなり読めるはずだ。
 と、そこで側仕えのひとりがルーインの帰還を知らせてきた。
 すぐにこの部屋に来るよう伝える。
 まもなく元気な声でルーインが部屋に入ってきた。
「コーデリア様、ただいま戻りました!」
「おかえりなさい、ルーイン」
「殿下、ご機嫌麗しゅう」
「オルドス閣下も遠路はるばる……どうやらすれ違いが起きていたようで」
「確かにそうね……」
「実は南部回りで足止めをされてしまいまして――」
 それからルーインは南部回りの鉄道で足止めを受けた件を話した。
「魔獣の発生で鉄道が止まっておりました。ヴォルデ領の周辺は特にひどいようです」
「そんなに被害が?」
「ここ数日間、魔獣の発生が不自然に多くなっております。調べてまいりました」
 ルーインが公国の地図を取り出して印をつけていく。
 確かにいくつかのでかなりの魔獣事件が発生していた。
「待って、この魔獣の事件は……」
「どうかいたしましたか、コーデリア様」
「この奥森林管理課の近く、他にも予算を流用している新規部署の近くじゃない?」
「確かに、むむっ……」
 オルドスとともに魔獣発生の地点と新規部署の所在地を突き合わせる。
 それらは偶然というには明らかに符合しすぎていた。
 とりあえず近くで事件を起こしてみました、というような。
「まさか……これは魔獣を誘導か、追い立てているのですか?」
 魔獣は発生しても速やかに討伐されている。しかし俯瞰してみると異常だ。
「その可能性もありそうね」
「信じられません……危険極まりない!」
「でも誘導をしているとして、意図はなんなのでしょうか?」
「慌てて討伐数を稼ごうとしているか……。何かの予行練習か。ヴォルデの周辺で魔獣がどのように動くか確認してるんじゃないかしら」
 私もそうだけど、各貴族や領主は自前で最低限度の魔獣討伐隊を抱えている。
 これらの部隊が基本的に領内の最精鋭だ。
 だから魔獣が発生すると、これらの討伐隊はかかりきりになる。
「魔獣を誘導できれば、倫理面はさておいて有効ではあるわ」
「もちろんそんなことは許されません」
 オルドスが言い切った。
「魔獣は本来、とても危険な存在。前例と規範に則って処理すべきもの。私利私欲や政治目的で誘導するなど為政者の道から外れている……! 確実な証拠があるわけではありませんが、陛下がここまでのことをしているのなら……っ」
 オルドスの懸念はもっともだ。
そしてディルダのやってきそうなことも予測ができたかもしれない。
「もし他の地域から魔獣を誘導されたら、少ない兵力でもヴォルデを脅かせるでしょうね」
「……コーデリア様の仰る通りかと」
「ヴォルデの魔獣討伐隊は五十人もいないわ。陛下の手の者が動けば、守りきれない」
 私はため息をついた。ディルダがそこまでやるかどうかだが、疑いは捨てきれない。
 いや――むしろこの手しかないように思う。
 公国の正規軍を動かすのは間違いなく頓挫する。
 だが魔獣を誘導して荒らすのなら、その後に兵を入れるのも容易だ。
 ヴォルデの討伐隊を無力化されたら、私には打つ手がない。
「どれほど時間が残っているかしら」
 私の言葉にオルドスが思案する。
「先日の話し振りでは、さほどの時間はかけないと思われます……。数週間かと」
「ど、どうしましょうか?」
「最悪の事態を想定しなければならないわね」
 帝国との関係の打開、資源の奪取。
 ディルダは怒っている。実力行使に出る可能性は相当に高いだろう。
「一番は……今、ヴォルデには帝国の方々も滞在しておられます。もし彼らに何かあれば、申し訳も取り返しもつかないわ」
 レオールから派遣された帝国の専門家、それに商人などなど……ヴォルデにいる帝国の人々は増えている。
 私のことはいいとしても、帝国の人々が不利益を被り、死傷するような事態になることは絶対に避けなくてはいけない。
「レオール様へ会いにいき、急ぎ相談して参ります。帝国の方々を引き戻すのなら、レオール様の命令が一番ですから」
「我々公国から呼びかけるより確実でしょう」
 オルドスが眉間を揉む。
「陛下が暴走しなければ良いのですが。しかし確保した資金を考えると、万が一の万が一にまで手を打たねば。コーデリア様には何度もご苦労をおかけいたします」
「いいのよ。これが私の生まれた意味だから。ただ――」
 そこで私は少し考えた。
 何度も頭をよぎっては捨ててきた考え。口に出すのも紙に書くのも憚られること。
「オルドス閣下、あなたも現状を憂慮していると思うわ」
「もちろんですとも」
 目の前の彼は信用できる。
 実直で……やや押しが弱いけれど、公平さと実務能力は申し分ない。
 ただ、このままでは彼も身体を壊すか辞職させられるかだろう。
 果たしてオルドスに匹敵するような人材があと何人公国に残っているだろうか。
 私はふぅっと深く息を吐いた。
「最後の計画について、そろそろ話すべき時じゃないかしら」
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