クールなパティシエが見せる笑顔は私にだけとびきり甘い
「なんか……冬馬、よく笑うようになったよね」

「えっ、あ……そうだね」

冬馬はふと口元に触れ、少しだけ気まずそうに視線を逸らした。

「どうしたの?」

不思議に思って首を傾げる。

「いや……俺のえくぼ、見すぎて飽きられるんじゃないかと思って」

「えー?」

思わず声が裏返る。

「ほら、クールにしてて、たまに見せるほうが特別感あるじゃん?」

「あー、そういう考え方もあるかもね」

「やっぱり……」

冬馬はすっと表情を引き締めた。
涼しげで落ち着いた顔。
ケーキ屋で見せる、いつものパティシエの顔だ。
たまにお店へ行くと、ショーケース越しに真剣な表情でケーキを仕上げる彼がいる。
その横顔は格好よくて、思わず見惚れてしまう。

邪魔をしないよう、そっとケーキを選んで会計を済ませようとするのだけれど――
冬馬はすぐに私に気づく。

そして、
『花蓮』とそう呼んで、くしゃっと笑うのだ。
その瞬間、お店の空気まで柔らかくなる気がする。
実際、スタッフさんたちも驚いていた。

『甘梨さん、そんな顔するんですね』

『クールなケーキ王子が笑った……!』

なんて、こっそり囁いていたこともある。
そんな笑顔を向けられるのは、いつも私だけ。
特別扱いされているみたいで、少しくすぐったい。
――でもそれがすごく嬉しい。
だから私は、目の前でクールな顔を作る冬馬を見てにやりと笑った。

「……えいっ!」

「え!? ちょっ――」

私は指先で冬馬の脇腹をくすぐった。

「っ、ははっ……やめ、花蓮っ」

くしゃりと顔を崩して笑う。
その笑顔を見て、思わず満足げに頷いた。

「やっぱりこっちのほうが好き」

「……もう。反撃」

次の瞬間、ぐいっと腕を引かれる。
気づけば冬馬の胸の中だった。

「わっ」

逃がさないと言うように抱き寄せられ、額や頬に次々とキスが降ってくる。
すると胸元近くにチクッと甘い痛み。

「ちょ、ちょっと!」

「大丈夫」

冬馬は楽しそうに笑う。

「俺にしか見えないところにしかしないから」

「もう……」

顔が熱くなる。
照れ隠しにテーブルの上のケーキを指差した。

「せっかく作ったんだから、先に食べようよ」

「それもそうだね」

そう言いながらも、冬馬はもう一度だけ頬にキスを落とした。

「と、冬馬」

「記念日だから、特別」

そう笑う冬馬のえくぼは、やっぱり何度見ても飽きそうになかった。
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