Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー
スタジオの空気は、録音の熱がすっかり落ち着いて、
静かな余韻だけが薄く漂っていた。
柚歩はマイクの前に立ったまま、そっと息を整えた。

喉の奥に残っていたわずかな震えが、今日はもう痛みではなく、
歌う前に息を整えるときの緊張に変わっている。
その変化を、身体の奥で確かに感じていた。

声が戻った――その事実が、ようやく自分の内側で温度を持ち始めていた。

けれど、胸の奥に芽生えている未来は、
以前のプロジェクトのように「顔を出して歌う未来」ではなかった。
光の中に立つ自分ではなく、
“声だけで生きる未来”が静かに形を持ち始めていた。

姿ではなく、声そのものが誰かの心に触れる未来。
覆面という形を選ぶことが、痛みから逃げるためではなく、
声を主役にするための選択になる未来。

柚歩は胸元のペンダントに触れた。
ラピスラズリの青が、スタジオの薄い光を受けてふっと揺れる。
その揺れは、まるで「声で生きる道」をそっと示すようだった。
< 103 / 144 >

この作品をシェア

pagetop