Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー
歩が息を引き取ったのは、静かな雨の夜だった。

病室の灯りは落ち着いたままで、窓の外の街は、
どこか遠くに感じられた。

麻衣は歩の手を握ったまま、涙をこぼさなかった。
こぼせなかった。

歩が最後に残した願いを、
胸の奥で強く抱きしめていたから。

指輪の箱は、
麻衣の胸元で静かに光っていた。

――その頃、
友香はひとりで街を歩いていた。

歩の死を知らないまま、
自分の中に芽生えた“新しい命”の気配に怯えながら、
それでも静かに受け止めようとしていた。

歩の声が、
まだ耳の奥に残っていた。

「友香ちゃん……」

その優しい声が、もう二度と聞けないことを、
友香はゆっくりと理解していった。

涙は出なかった。
出せなかった。

歩が残した温度が、
まだ胸の奥に残っていたから。

友香は、
歩のいない未来を静かに受け入れた。

そして、
新しい命の気配を抱えたまま、
歩のいない世界を歩き始めた。

――麻衣は、
歩の死を誰にも言わなかった。

友香にも、大学の誰にも。

ただ、歩が託した指輪だけを
静かに守り続けた。

箱を開くたびに、
歩の願いが胸の奥で光った。

「いつか……この光を必要とする子が現れる」

歩の声が、17年の時間を越えて
麻衣の中で生き続けた。

そして――
その“子”は現れた。

柚歩。

歩と友香の娘。
歩が知らなかった未来そのもの。

麻衣は、17年間守り続けた指輪を
そっと取り出した。

箱を開くと、
あの日と同じ光が
静かに揺れた。

「……歩くん。
 未来、届いたよ」

誰にも届かない声で、誰にも聞かれない場所で。

麻衣は指輪を柚歩に渡した。

柚歩はその光を見つめ、
胸の奥で何かが静かにほどけていくのを感じた。

歩と友香の愛は、
17年の時を越えて
未来で完成した。

その光は、
歩が残した“ダイアモンドの約束”だった。

誰にも気づかれないまま。
誰にも届かないまま。
それでも確かに、
未来へ届いた光だった。
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