Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー
第3章 初めての恋ーシトリンー
家に戻ってバッグを床に置いた瞬間、胸の奥に残っていた“さっきの余韻”がふっと息を吹き返したみたいに広がり、エレベーターの扉が閉まる直前に我妻琉生がこちらを見たあの一瞬、
その静かな視線がまだ胸の奥で熱を持ち続けていた。
落ち着けるわけがないと分かっているのに呼吸がうまく整わなかった。

スマホを取り出し、画面に浮かぶ“我妻琉生”の文字がさっきよりも近く感じられた。
連絡先を交換しただけ、仕事のため必要だから、そう言い聞かせても胸の奥のざわつきはまるで言うことを聞かず、
深呼吸しようとしたその瞬間、スマホが震えた。

一瞬、心臓が止まった気がした。
画面に表示された名前を見た瞬間、胸の奥が熱で満たされ、指先がほんの少し震えた。

《我妻琉生》

開くと、
そこにはただの仕事の文面が並んでいて、それなのに胸の奥がどうしようもなく熱くなっていく。

【今日はありがとうございました。
先ほどの資料、共有いただければ助かります】

“ありがとうございます”
“了解しました”
“よろしくお願いします”

どれも違う気がして、何度も打っては消して、また打っては消して、自分でも笑ってしまうくらい落ち着かず、
ようやく絞り出した言葉を送信した。

こちらこそ、ありがとうございました。
資料、すぐにお送りします。

送った瞬間、胸の奥がぎゅっと締まり、既読がつくのが早すぎて息が止まりそうになり、そしてほんの数秒後に返ってきた。

【助かります。
無理のない範囲で大丈夫ですので】

その“気遣い”が胸の奥に静かに沈み、優しくて、丁寧で、落ち着いていた。
でもどこか距離が近くて、どうしてこんなに胸が熱くなるのか、自分でも分からないまま、スマホを胸に抱えた。

部屋の灯りが静かに揺れ、窓の外の夜が深く沈んでいき、柚歩はその暗さの中でそっと目を閉じた。

また、 メッセージが来るかもしれない。
そんな期待を抱いてしまう自分が少しだけ怖くて、でもほんの少しだけ嬉しかった。
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