Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー
第4章 秘めた思いーアレクサンドライトー
夜の帰り道は、昼間の熱がすっかり冷えて、街灯の光だけが静かに路面を照らしていた。
人の気配はあるのに、どこか世界が遠く感じられるような夜だった。

そのとき——
歩道の端で、誰かがしゃがみ込むように倒れていた。

通り過ぎる人たちはちらりと見るだけで、誰も足を止めない。
スマホを見ながら歩く人、急ぎ足の人、視線を逸らす人。
そのすべてが“見なかったこと”にしていく。

柚歩は立ち止まった。
胸の奥がざわりと揺れた。

「……大丈夫ですか……?」

声をかけると、女性はゆっくりと顔を上げた。
息が荒く、額には汗が滲んでいるのに、どこか無理に笑おうとしていた。

「……ごめんね。急に眩暈がして立っていられなくなって」

弱い声なのに、天真爛漫な響きがあった。

「立てますか?」

「ありがとう……ごめんなさい。立てないので……」

女性は頭がグルグルするのか、立ち上がることもできない様子だった。
柚歩は迷わずタクシーを止めようとしたが、女性は首を振った。

「……ごめん。タクシーじゃ無理……」

その言い方があまりにも弱くて、胸が少し痛くなった。

柚歩はスマホを握りしめ、救急車を呼んだ。

赤いランプの光が近づき、夜の空気が静かに震えた。
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