溺愛狂瀾〜元恋人たちの襲来で、私たちの恋は狂いだす〜
「蓮くん、一緒にご飯いい?」
昼休みの教室。華やかな香水の香りと共に現れた麗奈は、信じられないことに、私の目の前で当然のように蓮の制服の袖をきゅっと掴んだ。その、慣れたような手の付き方に、心臓がドクンと嫌な音を立てる。
「……誰がお前と飯を食う! てか、何で転校してきた!」
蓮の声は、聞いたことがないくらい冷たかった。
いつも私に向ける甘いハチミツのような声とは180度違う、拒絶のトーン。
だけど麗奈は、そんな蓮の冷たさすら楽しむように小悪魔っぽく首を傾げる。
「もー、冷たいなぁ。親の転勤でこっちに戻ってきたの。ねえ、私のこと忘れちゃった? 中学のとき、いっつも蓮と一緒に部活の帰り道デートしたじゃん」
「昔の話だろ。離れろ、迷惑だ」
蓮は容赦なく麗奈の手を振り払うと、すぐに私の肩を抱き寄せて、自分の背中に隠すように囲い込んだ。
「俺には紬っていう最高の彼女がいる。お前と話すことなんて何もない」
蓮の大きな手が、安心させるように私の髪を優しく撫でる。
蓮が私だけを愛してくれているのは分かっている。
麗奈のことなんて、一ミリも視界に入れていないことも。
なのに、麗奈が口にした「帰り道デート」という言葉が、トゲのように胸に刺さって抜けない。
──私の知らない、蓮の過去。それを特等席で見ていた、元カノ……。
元カノだとすぐに分かった。麗奈ちゃんが蓮くんと仲良さそうにしてるのを見たら、すぐに分かる……。
分かりたくなくても分かってしまう……。
「あ、あなたが橘紬ちゃん? 蓮から聞いてた通り、すっごく可愛い!」
麗奈は蓮に拒絶されても全くめげず、今度は私に満面の笑みを向けた。
一見すると無邪気で優しいクラスメイト。
だけど、その綺麗な瞳の奥が、私を値踏みするように冷たく光ったのを、私は見逃さなかった。
「蓮ってさ、好きになるとちょっと重いくらい過保護でしょ? 昔からそうなの。私のときも、毎日『可愛い』ってうるさくて大変だったんだから」
クスッと上品に笑う麗奈。
その言葉は、「私は蓮の『最初』を知っている」という、静かで確実なマウントだった。
「──麗奈。二度と紬に話しかけるな。次やったら怒るよ?」
蓮の体から、ピリピリとした威嚇のオーラが放たれる。
その低すぎる声に、麗奈は「冗談だよ〜」と肩をすくめて、ようやく自分の席へと戻っていった。
蓮くんが「麗奈」と呼ぶ。
そっか……。麗奈って呼び捨てだったんだ……。
昔のことだと分かっているけれど、ちょっぴり嫉妬……してしまう……。
嵐が去った教室で、蓮はすぐに私の顔を覗き込んできた。
「紬、大丈夫? ……ごめん。あんな奴、ただの過去だから。俺が見てるのは紬だけ。ねえ、こっち向いて?」
心配そうに私の頬を包み込む蓮の手は、少しだけ焦ったように震えていた。
いつもなら、その過保護な愛に甘えて笑顔になれるのに。
私と付き合う前、蓮くんはあの人をあんな目で見つめてたんだ……。
頭の中にこびりついた、麗奈の「私のときも」という言葉。
生まれて初めて経験する、胸が引き裂かれそうなほどの激しい嫉妬。
蓮の胸に顔を埋めながら、私は自分の心がドロドロと歪んでいくのを感じていた。
これが、私たちの完璧だった幸せが壊れる、最初の足音だったなんて、この時の私はまだ知りもしなかった。
昼休みの教室。華やかな香水の香りと共に現れた麗奈は、信じられないことに、私の目の前で当然のように蓮の制服の袖をきゅっと掴んだ。その、慣れたような手の付き方に、心臓がドクンと嫌な音を立てる。
「……誰がお前と飯を食う! てか、何で転校してきた!」
蓮の声は、聞いたことがないくらい冷たかった。
いつも私に向ける甘いハチミツのような声とは180度違う、拒絶のトーン。
だけど麗奈は、そんな蓮の冷たさすら楽しむように小悪魔っぽく首を傾げる。
「もー、冷たいなぁ。親の転勤でこっちに戻ってきたの。ねえ、私のこと忘れちゃった? 中学のとき、いっつも蓮と一緒に部活の帰り道デートしたじゃん」
「昔の話だろ。離れろ、迷惑だ」
蓮は容赦なく麗奈の手を振り払うと、すぐに私の肩を抱き寄せて、自分の背中に隠すように囲い込んだ。
「俺には紬っていう最高の彼女がいる。お前と話すことなんて何もない」
蓮の大きな手が、安心させるように私の髪を優しく撫でる。
蓮が私だけを愛してくれているのは分かっている。
麗奈のことなんて、一ミリも視界に入れていないことも。
なのに、麗奈が口にした「帰り道デート」という言葉が、トゲのように胸に刺さって抜けない。
──私の知らない、蓮の過去。それを特等席で見ていた、元カノ……。
元カノだとすぐに分かった。麗奈ちゃんが蓮くんと仲良さそうにしてるのを見たら、すぐに分かる……。
分かりたくなくても分かってしまう……。
「あ、あなたが橘紬ちゃん? 蓮から聞いてた通り、すっごく可愛い!」
麗奈は蓮に拒絶されても全くめげず、今度は私に満面の笑みを向けた。
一見すると無邪気で優しいクラスメイト。
だけど、その綺麗な瞳の奥が、私を値踏みするように冷たく光ったのを、私は見逃さなかった。
「蓮ってさ、好きになるとちょっと重いくらい過保護でしょ? 昔からそうなの。私のときも、毎日『可愛い』ってうるさくて大変だったんだから」
クスッと上品に笑う麗奈。
その言葉は、「私は蓮の『最初』を知っている」という、静かで確実なマウントだった。
「──麗奈。二度と紬に話しかけるな。次やったら怒るよ?」
蓮の体から、ピリピリとした威嚇のオーラが放たれる。
その低すぎる声に、麗奈は「冗談だよ〜」と肩をすくめて、ようやく自分の席へと戻っていった。
蓮くんが「麗奈」と呼ぶ。
そっか……。麗奈って呼び捨てだったんだ……。
昔のことだと分かっているけれど、ちょっぴり嫉妬……してしまう……。
嵐が去った教室で、蓮はすぐに私の顔を覗き込んできた。
「紬、大丈夫? ……ごめん。あんな奴、ただの過去だから。俺が見てるのは紬だけ。ねえ、こっち向いて?」
心配そうに私の頬を包み込む蓮の手は、少しだけ焦ったように震えていた。
いつもなら、その過保護な愛に甘えて笑顔になれるのに。
私と付き合う前、蓮くんはあの人をあんな目で見つめてたんだ……。
頭の中にこびりついた、麗奈の「私のときも」という言葉。
生まれて初めて経験する、胸が引き裂かれそうなほどの激しい嫉妬。
蓮の胸に顔を埋めながら、私は自分の心がドロドロと歪んでいくのを感じていた。
これが、私たちの完璧だった幸せが壊れる、最初の足音だったなんて、この時の私はまだ知りもしなかった。


