Hotaru. ー 君と過ごした、たった一つの夏 ー
第一章 代り映えのない景色
「ほたるー!準備できた―?」
一階からお母さんの声が聞こえてくる。
「もうすぐー!」
私は慌てて旅行バックのファスナーを閉めた。
今日から夏休み。
そして今年の夏は、ずっと楽しみにしていた特別な夏になる。
おばあちゃんが暮らす町ーー光ヶ丘。
今まで何度も「遊びにおいで」と言われていたけれど、予定が合わなかったり、おばあちゃんの方が家に来てくれたりして、私は一度も光が丘を訪れたことがなかった。
だから今年が、初めての光ヶ丘。
「忘れ物ない?」
「うん!」
「おばあちゃん、すごく楽しみにしてるからね。」
「私も!」
胸が弾む。
どんな町なのかな。
どんな景色が待っているんだろう。
そんなことを考えているだけで、自然と笑顔になった。
❀
車は数時間ほどで街を抜け、海沿いの道を走る。
窓を少し開けると、潮風が頬を優しく撫でた。
「海だ…!」
目の前に広がる初めて見る海は太陽の光でキラキラと青く輝いていて、思わず身を乗り出す。
「光ヶ丘は海が近いからな。」
車を運転するお父さんが笑う。
「すごく綺麗…。」
遠くには、小さな町並み。
その向こうには山々が見えて、どこか時間がゆっくり流れているようだった。
❀
車が古い一軒家の前で止まる。
「ほたる!」
玄関から、にこにこと笑うおばあちゃんが出てきた。
「おばあちゃん!」
私は車を降りて、そのまま駆け寄る。
「やっと来られたねぇ。」
「うん!来たかった!」
「長旅お疲れ様。」
優しく頭を撫でられて、少し照れくさくなる。
荷物を部屋へ運び終えると、縁側で冷たい麦茶をごちそうになった。
風鈴が、ちりん、と涼しい音を鳴らす。
「いい風…。」
「光ヶ丘は夕方が一番綺麗なんだよ。」
おばあちゃんが空を見上げながら言った。
「そうなの?」
「流蛍川に架かる夜光橋って橋があってね。」
「夜光橋?」
初めて聞く名前だった。
「夕焼けの時間になると、本当に綺麗なんだ。」
私は目を輝かせる。
「行ってみたい!」
「暗くなる前には帰っておいでね。」
「はーい!」
私は帽子をかぶると、わくわくしながら家を飛び出した。
❀
初めて歩く光ヶ丘。
どこか懐かしいような商店街。
軒先で風鈴を揺らすお店。
「こんにちは。」
と声を掛け合う町の人たち。
歩いているだけで、なんだか心が温かくなる。
おばあちゃんに教えてもらった通りに商店街を抜けると、水の流れる音が聞こえてきた。
「……!」
目の前には、大きな川。
夕日に照らされて、水面がキラキラと輝いている。
「ここが…流蛍川。」
その川に架かる橋。
橋の入り口には、
『夜光橋』
と書かれた石碑が立っていた。
私はゆっくりと橋を歩き始める。
夕風が心地いい。
川の音も、夕焼けも、全部が綺麗だった。
「こんな景色、初めて見た…。」
思わず立ち止まり、川へ目を向ける。
その時だった。
橋の少し先。
一人の男の子が、欄干のもたれて立っていた。
黒髪に、少し長めの前髪。
首から下げたカメラを構え、夕焼けに染まる流蛍川へ静かにレンズを向ける。
ーーカシャ。
小さなシャッター音が、夏の風に溶けていく。
私は、その横顔から目が離せなかった。
「…この町の子、かな。」
知らない町で、初めて出会った知らない男の子。
だけどなぜだろう。
話してみたい。
そんな気持ちになった私は、小さく息を吸って、一歩、彼の方へ歩き出した。
一階からお母さんの声が聞こえてくる。
「もうすぐー!」
私は慌てて旅行バックのファスナーを閉めた。
今日から夏休み。
そして今年の夏は、ずっと楽しみにしていた特別な夏になる。
おばあちゃんが暮らす町ーー光ヶ丘。
今まで何度も「遊びにおいで」と言われていたけれど、予定が合わなかったり、おばあちゃんの方が家に来てくれたりして、私は一度も光が丘を訪れたことがなかった。
だから今年が、初めての光ヶ丘。
「忘れ物ない?」
「うん!」
「おばあちゃん、すごく楽しみにしてるからね。」
「私も!」
胸が弾む。
どんな町なのかな。
どんな景色が待っているんだろう。
そんなことを考えているだけで、自然と笑顔になった。
❀
車は数時間ほどで街を抜け、海沿いの道を走る。
窓を少し開けると、潮風が頬を優しく撫でた。
「海だ…!」
目の前に広がる初めて見る海は太陽の光でキラキラと青く輝いていて、思わず身を乗り出す。
「光ヶ丘は海が近いからな。」
車を運転するお父さんが笑う。
「すごく綺麗…。」
遠くには、小さな町並み。
その向こうには山々が見えて、どこか時間がゆっくり流れているようだった。
❀
車が古い一軒家の前で止まる。
「ほたる!」
玄関から、にこにこと笑うおばあちゃんが出てきた。
「おばあちゃん!」
私は車を降りて、そのまま駆け寄る。
「やっと来られたねぇ。」
「うん!来たかった!」
「長旅お疲れ様。」
優しく頭を撫でられて、少し照れくさくなる。
荷物を部屋へ運び終えると、縁側で冷たい麦茶をごちそうになった。
風鈴が、ちりん、と涼しい音を鳴らす。
「いい風…。」
「光ヶ丘は夕方が一番綺麗なんだよ。」
おばあちゃんが空を見上げながら言った。
「そうなの?」
「流蛍川に架かる夜光橋って橋があってね。」
「夜光橋?」
初めて聞く名前だった。
「夕焼けの時間になると、本当に綺麗なんだ。」
私は目を輝かせる。
「行ってみたい!」
「暗くなる前には帰っておいでね。」
「はーい!」
私は帽子をかぶると、わくわくしながら家を飛び出した。
❀
初めて歩く光ヶ丘。
どこか懐かしいような商店街。
軒先で風鈴を揺らすお店。
「こんにちは。」
と声を掛け合う町の人たち。
歩いているだけで、なんだか心が温かくなる。
おばあちゃんに教えてもらった通りに商店街を抜けると、水の流れる音が聞こえてきた。
「……!」
目の前には、大きな川。
夕日に照らされて、水面がキラキラと輝いている。
「ここが…流蛍川。」
その川に架かる橋。
橋の入り口には、
『夜光橋』
と書かれた石碑が立っていた。
私はゆっくりと橋を歩き始める。
夕風が心地いい。
川の音も、夕焼けも、全部が綺麗だった。
「こんな景色、初めて見た…。」
思わず立ち止まり、川へ目を向ける。
その時だった。
橋の少し先。
一人の男の子が、欄干のもたれて立っていた。
黒髪に、少し長めの前髪。
首から下げたカメラを構え、夕焼けに染まる流蛍川へ静かにレンズを向ける。
ーーカシャ。
小さなシャッター音が、夏の風に溶けていく。
私は、その横顔から目が離せなかった。
「…この町の子、かな。」
知らない町で、初めて出会った知らない男の子。
だけどなぜだろう。
話してみたい。
そんな気持ちになった私は、小さく息を吸って、一歩、彼の方へ歩き出した。
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