『恋愛ってなんですか?』

第23話 素直な気持ち

 千雅の言葉に、なんて返したらいいのかわからない。
 
 言葉が、詰まる。
 
「……千雅……私は……」
「大丈夫だよ。遥」


 それ以上何も言えない私を見て、千雅は優しく呟いた。

「今は返事しなくていい。でも、僕が遥を好きってことを知って。これからは僕のことを意識して。」

 私の目を見つめて離さない。千雅、本気なんだ。

「……っわかっ、た。」

 心臓がうるさい。
 でもこのうるささの原因がなんなのか、私にはまだわからない。
 恋とか、愛とか、言葉では知っている。それがどういうものなのかも、嫌なほど見てきた。
 ……怖い。
 それでも、千雅の気持ちにちゃんと向き合っていかないとダメだ。


「……ありがとう」

 千雅は優しく私の頭を撫でた。


 
 その後、何を話したのか正直覚えていない。
 私の頭の中はもう、千雅でいっぱいだった。

 ————————————

 休み明け。
 いつもの登校よりかなり早い時間。私はもう教室に着いていた。

「……私、一番じゃん」

 誰もいない教室は私の思考をより加速させる。
 あれから、何をしていても千雅の事が頭から離れない。

 千雅が私のことを好きだった。昔から、ずっと。
 
 今思えば、あの言葉も、あの誘いも。
 全部、そういう意味だったんだ。

 なのに私は、『その言い方やめなよ』とか『他の子だったら勘違いするよ』と。
 その時の自分を消し去りたい気分だ。

「ん゛あ゛ぁぁ……」

 自分の無神経すぎる言動に居た堪れなくなり、思わず声が漏れ頭を抱えた。
 机に置いた鞄へそのまま顔を埋め、目を閉じる。

 好きって、手を繋ぎたいとかハグしたいとか、そういう好きってことだよね?
 私と千雅が……。
 
 想像したことのないイメージに、もはや思考が止まる。
 付き合って、うまくいったとして。その先は?始まりがあれば終わりがある。
 私が恋愛なんてできるの?千雅との関係がなくなってしまうのは嫌だ。でも……。
 わからない。自分の気持ちがわからない。

「……なんか朔に会いたい。」

 鞄に埋もれたまま、朔の机を眺めてみる。
 なんでこんなにも朔に会いたくなるのか。
 でも、今は無性にあの落ち着く空気が恋しい。


「はあぁぁぁ……」
「大きな溜息だな?」
「どぅわあぁぁ?!」

 いきなり聞こえた人の声に、鞄から飛び上がった。

「……そんなに驚くと思ってなかった。悪い。」
「ごめ……お、おはよう朔。いつもより朝早いね?」
「おはよう。……まぁ、色々考え事してたら早くなった」
「あー……あるよね」

 静かな時間が少し、流れる。

「……さっき教室ついたばっかり?」
「……あぁ」
「そっか!」
「?」

 さっきの言葉、聞かれなくてよかった。
 押しつぶされて薄くなった鞄の形を直し、中身を机にしまい始める。
 
「あ。」
「どうした?」
「……筆箱、忘れた」

 うっかり、というか全く確認もしていなかった。
 千雅ことばかり考えていて鞄の中身を気にしていなかった。

「やらかした……モッチー貸してくれるかな」
 せめてシャープペンと消しゴムだけでもないと困る。
 
 隣では朔がカチャカチャとなにかしている。何をしているのか、鞄が陰になってよく見えない。

「俺ので良ければ、使うか?」
 
 朔と出会った時に拾った紺色の筆箱だった。
 まだ数ヶ月前なのに、何だか懐かしい。

「え。朔、書くもの無くなっちゃうじゃん!」
「俺はこっちがある」
 筆箱を持った反対の手から色違いの黒い筆箱が顔を出す。

「……筆箱二個持ってるの?」
「……たまたま入ってた」
「え、本当に?」
「……本当に。」

 そんな都合よく二つ持ってるなんて。朔は両手に似たような筆箱を持って気まずそうに立っている、なぜか少し面白い。
 一瞬の間の後、目を合わせ、二人揃って笑ってしまう。

「ふふっいつも筆箱二個持ってるの?」
「いや、今日本当にたまたま」
「奇跡じゃん」

 なにを考えていたんだっけ。
 気づけば、すっかり忘れて笑っていた。

「ありがとう。よかったら借りていい?」
「あぁ」

 朔の優しさに甘えて紺色の筆箱を借りることにする。
 筆箱を受け取り、机の中に一旦しまう。
 
 考え事をしすぎて、筆箱も忘れショックだったのに。何だろう?
 今はちょっと、嬉しい。
 朔と朝からこうして楽しく話せたから?それとも借りた筆箱から朔を少し感じるから?
 どうして私は、朔といるとこんなに楽しいんだろう。

 
「……金曜日、急にバイトになって大丈夫だったか?」

 朔から珍しいことを聞かれる。
 質問に千雅の告白を思い出すが、それを言うのは違うと口を(つぐ)む。

「全然大丈夫だったよ!あの日、葵と由乃がバイト先に来てくれて。……千雅も夕方くらいに来てくれたんだ」

「……そうか」
 朔は視線を落とした。
 なぜか沈黙に、少し重みを感じる。

「朔は大丈夫だった?モッチーの手伝いに駆り出されてたんでしょう?」
「あぁ、なんか体育館の椅子を移動させるのを——」


 朔と話していると、いつも時間が足りない。
 私達の教室にはいつの間にか人が溢れ、今日もいつも通り授業が始まった。
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