『恋愛ってなんですか?』

第33話 意気地なし


 「朔……?」

 ショッピングモールを出て、駅に向かって歩く。
 私の手を握ったまま、荷物も全部、朔が持ってくれている。

「……。」

 朔は前を向いたまま、歩き続けた。

 私の反応が変だったから、気にしてくれたんだ。
 この手を握っている理由はそれだけ。
 
 私より少し前を歩いて顔を見せないのも、きっと深い意味はない。



 わかっているのに。
 朔との間に流れる空気が。
 彼の見せる態度が、その考えを否定する。
 

 

「ねぇ、朔」

「……どうした」

「違ってたら、言ってね」

「……。」

 
「朔、私のことを……好きだったりする?」


 

 朔の手に、力が入る。
 
 返事を聞くのが怖い。
 怖いのに、聞きたいと思う自分がいる。
 

「……あぁ。」

 朔は足を止めない。
 顔も見えない。
 私の手を離さないまま、はっきりと言った。

 
「遥が好きだ。」
 

 
 
 道路を走る自動車の走行音が遠く。
 世界に私と朔しかいないみたいに静かだった。
 心臓が脈を打ち、体温が上がるのを感じる。
 
 朔の答えは、私の中を埋め尽くした。

 
 私の視線は下に落ちる。
 
 本当はわかってる。 知り始めてる。
 それでも、変化は怖い。
 私の中の恐怖が言葉にするのを止めた。
 
 言葉が 出なかった。

 
「……いい。」
「え……」

「今はいい。もっと、考えてからでいい。千雅のこともあるだろ」

 朔の言葉に一瞬思考が止まる。
 そっか。千雅のことも知ってたんだ。
 
 私は朔に聞いた。
「……なんで私なの?」
 私より可愛い子なんて、いくらでもいるのに。

 朔の歩調が私と揃う。
「最初は全然意識してなくて、気にしてもいなかった。それが、一緒にいると楽しくて、そばにいるのが当たり前になった。遥といるとパズルのピースがピッタリハマるような感覚になるんだ」
「……不思議だね。」
「不思議だよな。俺も不思議なんだ。」

 私たちの横を風が通り抜け、木々が優しく揺れる。

 朔は言った。
「……気付いた時には、遥を好きになっていた。」

 
 朔の言葉が深く、私の中に入り込む。
 染み込んで広がって、私の体を熱くする。

 それでも。
 一歩を踏み出す勇気は、私にはまだ無い。


  ————————————


 駅前の喫茶店。

 扉の前に着くと、握っていた手が離れる。
「昼、サンドイッチとかでよかったか……?」
 
 そういえばお昼ご飯を食べていなかった。
 すっかり忘れてた。

「いいよ!お昼のこと忘れてた」
「ここでいいか?」
「うん!」
 
 レトロな雰囲気の扉を開ける。同時にカランカランと鐘の音が店内に響く。
 客席は比較的空いていて、過ごしやすそうだった。
 入るとすぐに女性の店員が私たちに声をかける。
 
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「2名です」
「あちらの席にどうぞ」
 年配の女性に促され、窓際の2人席のテーブルに座る。
 少し硬めのソファーからは喫茶店の温もりも感じた。
 
「お決まりになりましたらベルでお呼びください。」
 女性店員はテーブルを離れる。
 何にしようかとメニューを見る。
 ふと目の前の朔が、メニューを選ぶ姿に目が離せなくなった。

「……そんなに見るな」

 ハッとなり、メニューで顔を隠す。
「ごめん!つい……」
「……」
「……」

 短い沈黙。

「決まったか?」
「ま、まだ!」

 普通に過ごすなんて無理だった。さっきの出来事が頭をよぎる。
 考えないようにと思っているのに、無意識に思い出してしまう。
 朔の視線を避けるように、メニューを立てる。

 避けるように顔を隠しているとメニュー表越しに声が聞こえた。

「さっきの、冗談じゃないからな。」
 
 朔は私に念を押す。
 
「……うん。」
 わかってる。朔は本気だ。
 
 次の瞬間。目の前にあったはずのメニューが朔によって退かされる。

「遥が目を逸らしても、俺は見るけどな」

 メニュー表の向こうから現れた朔はじっと私を見つめて離さない。
 いつもと違う攻撃的な姿に胸が高鳴り、動揺する。
「さ、さく?!なんかいつもと違うよ!?」

 いつもの朔からは想像できない積極性に、私の心臓の音がテーブル越しに聞こえてしまいそうだった。
 
「……俺にもよくわからん。けど、遥の反応は本当面白いな」

 
 いつにも増して楽しそうに笑う朔は、少しイジワルに見えた。
 
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