『恋愛ってなんですか?』

第8話 映画

 9時50分。
 集合時間の10分前。

 天気予報は一日晴れ。
 気温も暑すぎず、ちょうどいい絶好のお出かけ日和だ。
 今日は映画館で映画を観て、その後は散策しながらショッピングの予定。
 友達と遊ぶことはもちろん、五人という大人数でのお出かけにちょっとだけ、わくわくする。
 駅前の時計を見て、キョロキョロ見回していると、こちらに向かってくる男性が見える。朔だ。
 「朔!早いね」
 「遥のが早いだろ」
 「まぁ、そうだね」
 いつもの制服姿しか見たことがなく、朔の私服姿に慣れなくてじっと見つめてしまう。
 温かみのある春らしさを感じるマウンテンパーカーに、ブラックのスリムパンツ。
 シンプルなのに、朔が着るとモデルみたいに見える。
 
 「なんか私服って変な感じかも」
 朔も同じ事を思っているのか、私をじっと見つめる。
 「同じこと思ってた」
 以心伝心だった。同じ思考だったことが面白くて笑ってしまう。
 10時。待ち合わせ時刻になると、由乃と拓真が手を振りながらこちらに歩いてくるのが見えた。
 「ごめんねぇ〜!お待たせ〜!」
 「あ。二人は早いね。まさか、一緒にきたの?」
 「いくら一緒のマンションでもわざわざ一緒に来ないよ」
 キラッと何か光るものが目に入り、見てみると二人の手にはペアリングが付いている。
 よく見ると、服装もそれとなくだがリンクコーデになっているようだった。
 相変わらず仲が良い。
 「葵ちゃんはまだかな?」
 拓真が周りを見回すが、まだ葵は現れない。
 「葵、学校でも割と遅刻魔だから」
 「それがもう普通だもんねぇ」
 
 「ごめーーーーーん!」
 待ち合わせから10分くらい経って、葵が走ってやって来る。焦ってきたのか、髪の毛が乱れがひどい。
 「今日はっ時間っぴったりにっこようと思ったのに……っ」
 「大丈夫、大丈夫」
 「予想通りぃ、予想通りぃ」
 「既に諦められてるぅ!?」
 落ち込む葵をそっと拓真が慰めているが、そんなことは無視して私と由乃は会話を進める。
 「映画の時間、何時だっけ?」
 「んー、一時間後くらいかなぁ」
 「じゃあ今から向かってチケットとか色々買ったらちょうどいいね」
 後ろではまだ葵が少し落ち込んでいた。
 「葵、行くよー」
 落ち込む葵はそのままに、駅を出て五人で映画館へ向かった。
 
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 「あったこれこれ」
 毎年映画が公開される、国民的な推理アニメの最新作。
 子供、大人関わらず大人気で、特に今回の作品はかなり良いと評判だ。
 チケット発券端末を操作して席の空き状況を確認する。
 「あー、もう横並びで五人取れるいい席ないね」
 かなり人気なようで既に中央付近の座席は埋まってしまっていた。 
 「二人席と三人で分かれるならあるけど」
 五人で並んで座れるのはそこしかなかった。
 「いいんじゃない?」
 「通路挟んじゃうけど隣と言えば隣だもんねぇ」
 「朔と拓真もいい?」
 「もちろん!」
 「あぁ」
 みんなの同意を得て、チケットを購入する。
 発券端末からチケットが五枚、一枚ずつ発券される。
 「二人席誰が座る?由乃と拓真で座る?」
 まぁ普通に考えたらこの二人。当たり前のように二人席が一番似合う二人に提案するが、なぜか二人は納得がいかない様子。
 「いやいや、ここははるちゃんと朔でしょう」
 「何がどうして、どういう思考?」
 二人の考えがよく分からない。
 「いや、ほら、待ち合わせに早く来てた二人がそこは座るべきかなって」
 「ええ?いや、カップルで座ったほうがいいんじゃないの?」
 「今日は恋人同士としてきたんじゃないんだ!友達として遊ぶために来たんだ!な、由乃!」
 「そうだよぉ!」
 (リンクコーデにペアリングをつけながら何言ってんだ)とツッコミを入れずに我慢した私は素晴らしいと思う。
 二人で何を企んでいるのか。そろそろ私と朔に何かさせようとする動きはやめてほしい。
 理由のこじつけ感に少し呆れる。埒が開かないので、朔と葵にも聞く。
 「朔と葵は?」
 「どっちでもいい」
 「うちは由乃達と三人席でいいよー」
 私の味方はいなかった。

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 シアターの中は薄暗く、灯りも抑えられていていつもと違う雰囲気に少し気持ちが盛り上がる。
 通路を進むと、自然と朔がすぐ隣にいた。
 暗さのせいか、距離がいつもより近く感じる。目が慣れるまでの数秒が、楽しくさえ思えた。
 階段を昇りながら、チケットの番号を確かめ席を探す。
 「あった」
 登って左側に二人席、通路を挟んで三つ空いた席が見える。
 「朔、通路側でよかった?こっちがよかったら全然変わるよ」
 「大丈夫。遥はそっちでよかったか?」
 言葉数が多くないけど、朔のこういう返しに優しさを感じる。
 「うん、大丈夫。ありがとう。」
 売店で匂いに負け、買う予定のなかったポップコーンを食べながら上映を待つ。
 ……美味しくて手が止まらない。上映前に食べきりそうだった。
 ポップコーン全体にキャラメルソースがかかっていて味がしっかりしている。トッピングのプレッツェルの塩っぱさとキャラメルの甘さが絶妙だ。

 「……そんなに美味しいのか」
 しまった、朔に見られていたらしい。
 「めっちゃ美味しい。朔も食べなよ、止まんない」
 「そんなにか」
 朔は試すようにポップコーンを一口摘む。
 「これは……美味いな」
 「でしょ!」

 そんな他愛ないやりとりの中、場内の照明がゆっくりと落ち、映画が始まる。
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