星降る夜に、あの日のキスをもう一度
 膝をついたままで話すサシャに、マリオンは一瞬虚を突かれた顔をした後、微かに緊張を解いた。

「さあ。ぼくはヒトよりは長く生きているから、会ったことがあるかもね」

 エルフのイタズラっぽい表情にサシャは何か得心したように深く頷くと、嬉しさをこらえきれないかのように微笑む。

 次に彼女はアンジェラの側に来て補修してもらったばかりのドレスの裾を手にすると、そこに口づけた。
 それは最大級の敬意の表れで、アンジェラは愕然とした。

「サシャ様、おやめください」
「いいえ。アンジェラ様。あなた様からあふれる波動は癒しの力。エドガー様の力を解放してくださってありがとう存じます。城に来ていただいてからそれを行うための準備を整えておりましたが、すでにアンジェラ様がしてくださったと伺っております」

 そのために大掛かりな準備をしていたことを話すサシャの目は尊敬の色に輝いていて、アンジェラはさらに居心地悪くなる。だがサシャの次の言葉に、アンジェラはきょとんとした。

「このような大魔導士様にお目にかかることが出来て、本当に光栄ですわ。アンジェラ様、今後もどうか、あちらの世界からエドガー様をお守りくださいね」
「あちらの世界?」
「ええ。今回は引っ張ってしまいましたが、アンジェラ様がエドガー様の戻る地にいることで、安定した力を保つことが出来ます。そのように整えて下さったのですよね?」

(いえ、そんなこと全然考えてませんでしたわ)

「アンジェラ、何キョロキョロしてるのさ。気付いてなかったの?」
「マリオン、これ、どういう意味なの?」
「え? アンジェラとエドガーは、なんというか、同じ系統の魔力、師弟関係? まあ、そんなもので繋がってる。それはいい?」

 呆れたようなマリオンに、アンジェラはこくこくと頷く。

「アンジェラの元々いるべき世界とここは、アンジェラの力によって繋がっている。それもいい?」
「えっ?」

 驚いて思わず大きな声を出したアンジェラは、同じように驚いているコンラッドと、「そんなことだろうと思った」というエドガーを交互に見る。

「わたくしのせいで、エドガーは召喚を受けることになってしまったの?」

「わたくしのせいというか、おかげかな。アンジェラがいなかったら、リンの時のように突貫工事で隧道(トンネル)を掘らなきゃいけなかったんだろうね。リンの時の隧道はリンの形でしかなかったから、他の人は誰も通れない。人も、魔物も。今回はアンジェラがいて綺麗な橋をかけてくれているから、エドガーをすんなり渡すことが出来た。ただしそのせいでアンジェラも引っ張ってしまった。サシャ、それであってるかな?」

「はい、その通りです。エドガー様の力の解放の後で門を作る予定でしたが、不測の事態により、川の水が海に流れるようにアンジェラ様達を引き込んでしまったのです。わたくしどもの考えが甘かったがために、本当に申し訳ないことをいたしました」

 頭を下げるサシャの前で、アンジェラの全身から力が抜ける。

「もしかしてわたくしは、イリスにいたほうがエドガーの役に立つの?」

 その呟きに、エドガーが驚いたように目を見開いた。
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