今日はここまで、ここから一緒に〜君と作る未来〜
「……お母様は」
「僕が高校のときに、亡くなりました。病気でしたが、治療が始まる前から、ずっと疲れていた気がします。キッチンに立つときだけ、少しだけ背筋が伸びていた」
快浬さんは、ふっと笑う。
「だから、僕は〝キッチン王子〟なんて呼ばれると、むずがゆいんです。王子でも何でもなくて、ただ、あの場所に立つ人の背中を、少しでも軽くしたいだけなので」
そのときわたしは、はっきりと気づいた。
自分が惹かれているのは、
この人の頑固さではなく、
その奥にある『誰かを守りたい』という静かな願いだ。
そして同時に、わたし自身の中にも、
消えない傷があることを、
改めて思い知らされた。
前職で、
自分の企画が経営陣の都合でねじ曲げられたあのとき。
ユーザーと約束したはずのコンセプトが、
『そんなのは理想論だ』と笑われ、
結局コスト優先の仕様に変えられてしまった。
あの瞬間から、
わたしは『理想』を口にすることが怖くなっていた。
けれど今、目の前にいる快浬さんは、
理想を現実に落とし込むために、
誰よりも頭を使っている。
――この人となら、もう一度、
理想を言葉にしてもいいのかもしれない。
そう思ったとき、胸の奥で何かが静かにほどけた。