My sweet tone
7月の空は眩しい。

今年も無事梅雨があけ、本格的な夏がスタートした。近年地球温暖化がぐんぐん進行しているため、毎年暑さを更新する。
先日までしとしととしていた雰囲気とは裏腹に、今はギラギラという感じだ。窓辺の海もまるで細かなビーズが散らばされたような煌めきを放っていた。
4時間目ともなると3階の教室にはかなりの日光が注がれる。普段は「青春席」と呼ばれ、当たりとされるここもこの時期だけは当たりたくないものだ。暑すぎる。
小さなスタンドを机の左端において、今や学生の必需品となったハンディファンを立てた。教室には冷房が効いているのだが、どうしたって窓際の席は暑い。
8割頭に入らない授業を右から左へ聞き流して浅田苺(あさだまい)は頬杖をついて、だるくなってきたので目を閉じた。






「まーい!起きろ!お昼だぞ!!」

「暑っついーー。ジュース買い行こー。」

「購買混んでるかなー?去年シューアイスとか売ってたよね。」


頭をぺし、と叩かれて目が冴える。どうやら数分前に授業は終わっていたらしく、苺の席は友人に囲まれていた。
寝ていたので体が熱い。熱さでぼーっとしているのを見られ、取り囲んでいたうちの一人である咲奈(さな)にカバンの中から財布を出され手を引かれた。お弁当を持ってきたのに強制連行らしい。

苺は所謂一軍であった。
女子バレー部の次期キャプテンであり、部内では圧倒的にトス精度のよい輝かしいセッター。苺の代はアタッカーを志望する人が多く、苺自身も中学では3番目にボールを触ることが多かったのでアタッカー志望だったが、仕方なくセッターに回った。最初は不服であったが、どうやら性に合っていたらしい。
苺たちのグループは女バレが3人、陸部が1人、女バスが2人のクラスでも目立つ類で、ひょいと廊下に出ただけでもすれ違いざまに話す人間は多い。別に目立ちたがり屋でもなかったが人見知りという訳でもなく、得た地位で楽しい高校2年生を送っている。

激暑の廊下に6人で並び、適当な噂話を繰り広げて購買の列を待つ。生徒の恋愛話やら、先生の裏話やら。グループの1人である唯はその手の話にうんと詳しかった。


「でさー、岡ちーってサッカー部の上原と距離近くない?」

「えー!そうなの!でも上原って苺のこと好きみたいな噂あったよね。」

「苺可愛いからね〜。でも苺は別になんでしょ?」

「んー、別にかなー。」


もったいないなー、と隣からツンツン突かれる。上原は学年でもイケメンとされる部類であり、苺自身も確かに爽やかなタイプのイケメンだなと感じていた。その上サッカー部なので人気は高い。ちなみに、岡ちーというのは苺のクラスの岡さんのことで、おそらく地毛であるのに薄茶色で少しくせっ毛の小さく可愛らしい女の子のことだ。

適当な話をしているうちに順番が回ってきて、苺は自販機で紙のミルクコーヒーを買った。冷たさとカフェインで少しでも眠気覚ましになればいい。






「じゃ、今日は解散!地区予選近いから、みんな早めに寝て明日の朝練に備えてね。」


ありがとうございましたー!と、第二体育館に一斉に声が響く。今の3年が引退してしまったら、解散の挨拶をするのは苺の役割になる。別に重荷に思うことはないが、このように尊敬される先輩になれるかが少し不安であった。
日が伸びてきたので19時前であっても体育館の外はまだ明るく、外部は未だ自主練に励んでいる人もいる。その中に笑恋(にこ)が見えたので咲奈と(あかり)と共に「にーこー!」と手を振った。確か笑恋も個人戦出場予定なのだと言っていた。


「ねね、笑恋の自主練が終わったらちょっとだけ公園行こうよ!少しだけ遊んでかーえろ!」

「賛成〜!」

「...あ、ごめん。私、用事ある。」


そっかー、じやーね!と咲奈たちが言うのにまた誘って!と謝罪を入れて、足早に体育館を出た。

海沿いなので日も落ちかければ陸風が舞い、ほんの少しの涼しさを感じさせる。風に乗って聞こえてくる校舎からの音に足を任せながら、引き寄せられるように上靴に履き替えた。
だんだんと近づくカチ、カチ、とリズムを重ねる音と同時に階段をかけ上がる。音のなる方へと向かって日中居眠りをした教室のドアを引いた。

瞬間、今まで薄らと聞こえていた木管低音の重圧がずん、と体に乗りかかる。
苺はこの感覚が本当に好きだった。


「......ユウ。」


ぴたりと音が止む。


「...苺ちゃん?来てたんだ。」


バリトンサックスを抱えたまま、スラリとした長い背を振り向けて、早川優斗(はやかわゆうと)は苺へ微笑んだ。
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