政略結婚ですが、クールな旦那様の溺愛が始まりました
すみれが朝食を半分ほど食べた頃、廊下の方でドアが開く音がする。程なくして、彼がリビングに入ってきた。


「おはようございます」
「おはよう」


交わしたのは、普段通りの代わり映えのない挨拶。
慧はすみれを見もせずにキッチンに行き、マグカップにコーヒーを注いだ。


戻ってきた彼がすみれの対面に腰掛け、マグカップに口をつける。視線はタブレットに注がれており、すみれのことを気にする様子はない。


すみれは口を開きかけては閉じ、結局は言葉を発せないままオムレツを口に入れた。


(まるで、慧さんには私が見えていないみたい……)


家庭内別居中の、熟年夫婦。そんな表現がぴったりだと思うほど、ふたりの間には大きくて分厚い壁がある。
これなら、結婚前の方がよほど距離が近かった。


出会ったときに見せられた笑顔は、幻だったのかもしれない。そんな風に思うほど、今はあの頃よりもずっと慧のことが遠い存在に思える。


すみれは嘆息しそうなのをこらえ、彼をちらりと見た。


意志の強そうな涼やかな奥二重の目、スッと通った鼻梁。薄い唇に、無駄なものがない輪郭。均整の取れた綺麗な顔立ちだが、凛々しい眉にはワイルドな雰囲気もある。


髪型は、爽やかなショートスタイル。清潔感があり、センターパートの前髪から覗く瞳には力強さが宿っている。


一八二センチの体躯は程よく鍛えられ、スタイルがいい。手足が長く、腰の位置が高いのだ。
そのため、慧はどんな服でも着こなしている。特に、オーダーメイドのスーツ姿は、人気俳優にも引けを取らない。


容姿端麗とは、まさに彼のような人間のこと。
初めて会ったとき、すみれは慧に見惚れてしまった。だからなのか、今も彼を前にすると緊張してしまう。

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