愛より金を選んだ男爵令嬢は人違いで溺愛される
 私がこの屋敷に到着してから一時間も経過していない。部屋の配置はもちろんのこと、キッチンの場所は教えられていないし、制服すら支給されていない。こんな状況で食事の準備なんて……。

「モリアがまだ食事という気分ではないならもう少し後でも構わないのだが……」
「いえ、そんなことは……」

 いや、だが借金返済のためにこの場所に来た以上、『やらない』『できない』という選択肢はない。

 今からでも屋敷のどこかにいる使用人を探して、せめて食堂の場所を教えてもらうしかないのだろう。

 ドアに手を伸ばして足を踏み出そうとすると、ドアノブに伸ばしたはずの手はラウス様の手によって包み込まれた。

「では行こうか。みんな待っている」

 なぜラウス様は私の手を握るのだろう?
 この年になってさすがに迷子になったりはしない。

「あの、ラウス様……」
「どうかしたのか?」
「手、なのですが……その……」
「手がどうかしたか?」

 私の指摘にラウス様は首を傾げるだけ。もしかしたらカリバーン家は、上級の貴族は使用人にも紳士的に接するのかもしれない。

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