敏腕CEOと契約結婚したら、攻略不能なほど溺愛されています
 彼女はひどく冷たい眼差しを向けてきた。ウソや誤魔化しをいっさい許さないという無言の圧力を感じた俺は、頭を下げることしかできない。
 そんな俺を尻目に、彼女は優雅に足を組み替え、怒りの感情をのせながらフフッと笑った。

「でも安心して。そうはならないわ。碧人さんのお父様が京極グループのトップで本当によかったわね」

 ひどく嫌みっぽい言い方だ。どう返事をしようか考えているあいだに、彼女は「じゃあまた」と言い残して部屋を出ていった。

 自分に自信のある弘花さんはプライドが高い。俺に恥をかかされたと抗議しに来るのは想定の範囲内だった。
 おそらく、今後はうちの会社と取引しないよう父親に頼んだのだと思う。だが、篠部社長は俺の背後にある京極グループとのつながりのほうを選んだのだろう。俺と懇意にしていれば、いずれ父とも縁を結べる、と。


 重苦しい空気から解放され、ようやく一日の業務を終えて帰宅の途につく。
 マンションの玄関からリビングへ続く扉を開けた瞬間、ふわりと甘辛い醤油の香りが鼻腔をくすぐった。

「おかえりなさい、碧人さん」

 キッチンからパタパタと駆け寄ってきた陽咲が、弾けるような笑顔で俺を迎えてくれた。

「ただいま。いい匂いがするな」
「ちょうど今、キンメダイの煮つけができたところなんです。スーパーでいいのが手に入ったから、碧人さんに食べてほしくて」
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