空に吹く、風の音を教えて。
水族館なんて小学校の校外学習以来だと思う。

我が家は基本的にインドア派で長期休暇中も近場で済ませることが多かったし、ちょっと歩けば観光地という特殊な環境で育ったためあまり人が多いところに行きたくもなくなり、歳を重ねるに連れ、自主的に家に籠るようになった。

だから、目に映る全てが新鮮で、本当に異世界に来たかのように思えた。

いつも見ている景色が山ばかりだから余計に海が恋しくて。

ありきたりな表現だけど、すごくキラキラして見えた。


「あっ!あっちにペンギンいる!あ、あのっ、一緒に行きませんか?」

「え?あ、うん。いいよ。行こうか」

「は、ははっ!はいっ!」


いつの間にか光莉ちゃんは月雲くんの隣をキープし、その背後に颯太が鋭い眼光で睨みつけながら歩くみたいな構図が定着してしまった。

残されたのは、かつての川越第二小5年1組の3人。

呼吸をするのも苦しいくらいだから、私は2人とは少し離れ、館内で1番大きな水槽を眺めていた。

もともとぼんやりするのが好きだから、こうやって魚になった気分でただ眺めていると落ち着くんだよね。

エイの顔…じゃないんだろうけど、あれが癒し効果抜群で心が軽くなるし、イワシの群れが同じ方向にただひたすら泳いでるのとか、生命のエネルギーを感じるっていうか。

こういう何気ない生命の営みみたいなものを見てるのが私の性には合ってるんだ、きっと。

ペンギンはもう少し人がはけてからにしよっと。

なんて考えていると、ブーブーとバッグの奥底に沈んでいたスマホが震えた。

慌てて取り出すと、SNSのトーク画面に切り替わった。

颯太からメッセージが来ていた。


ーーアイツ、やばい。

何が?

ーーもうみつりん堕とした。推しが同じだったっぽい。

ーー帰ったら即インストールする。
  風花も覚えといて。アイドライズっていう音ゲー。

オッケー(スタンプ)


よし、会話終了。

もぉ、いちいち報告して来ないでよ。

こっちは黄昏てたっていうのに。

あれ?

私の推しエイちゃんは…?

どこ行ったの?


「どこ?」

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