春は眩しくて、届かない


その日の帰り道。



りのんは珍しく、まっすぐ家に帰れなかった。


夕方の空気は冷たくて、制服の袖の隙間から秋が入り込んでくる。



気づけば、陽奈の家へ向かう坂道を歩いていた。



(……なにしてるんだろ)



自分で思う。
でも足は止まらない。


3日。
たった3日なのに、やけに長かった。


住宅街は静かだった。
夕飯の匂い。
遠くの犬の鳴き声。



その全部の中で、りのんの心臓の音だけがやけに大きい。


陽奈の家の前で、足が止まる。


インターホンを押す勇気が出ない。

迷って。
立ち尽くして。
帰ろうかと思った、その時。


玄関のドアが開いた。



「……りのん?」



陽奈だった。


部屋着にカーディガンを羽織っただけの姿。



少し痩せた気がする。
でも一番違ったのは、目だった。


驚いているのに、どこか泣きそう。


一瞬、言葉を失う。



「ごめん……来ちゃった」



結局、それしか言えなかった。


陽奈は小さく目を瞬いて、
それから少しだけ困ったみたいに笑う。



「りのん、来てくれたんだ」



「うん」



「ごめんね急に……」



「ううんこちらこそ」



ふたりとも少し笑う。


その笑い方が、懐かしくて。
胸の奥が、急に痛くなった。


沈黙。



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