春は眩しくて、届かない

この季節の静けさに染まりたい



放課後。
夕焼けの色が、少しずつ教室に滲み始めていた。



「じゃあねー!」




「また明日!」




クラスメイトが次々に帰っていく中、
わたしは机に広げたままのノートをゆっくり鞄へしまっていた。


そのとき。



「鈴野」



名前を呼ばれて、肩が小さく揺れる。


顔を上げると、
柏木くんが教室の後ろに立っていた。



「あ」



昼休みに貸したノート。


柏木くんはそれを軽く持ち上げる。



「これ。助かった」



「……あ、ううん!」



陽奈は慌てて受け取る。


指先が少しだけ触れて、
胸の奥がまた落ち着かなくなる。


でも柏木くんは、
そんなこと気づいていないみたいに続けた。



「ていうか、ノート分かりやすかった」



「え、ほんと?」



「ん。助かった」



その言葉だけで、
少し嬉しくなってしまう自分がいる。


陽奈は誤魔化すみたいに笑った。



「ちゃんと授業聞いてるからねー」



「俺も聞いてる」



「絶対嘘じゃん」



思わず笑うと、
柏木くんも少しだけ口元を緩めた。


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