春は眩しくて、届かない
——でも。
それが、今になって引っかかる。
りのんの顔が浮かぶ。 あの静かな目。 いつも少しだけ遅れて笑う癖。
あの子に、嘘をつくのは違う。
「……今日、帰り」
陽奈はひとりで呟く。
ちゃんと話そう。
大げさにするつもりはない。
まだ“好き”とちゃんと言葉にできるほど、はっきりしているわけでもない。
でも。
隠すのは違う。
りのんには、そういうのじゃない。
椅子から立ち上がると、窓の外で秋の光が揺れていた。
教室のざわめきの中で、気持ちだけが少し先に歩いていく。
(ちゃんと話す)
それだけを繰り返しながら、 陽奈は次の授業の準備をした。
胸の奥の小さな痛みを、見ないふりをしないまま。