【新作】財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて
「フードコートってのはな」

俺はできるだけ分かりやすく説明する。

「いろんな店で飯買って、好きな席で食う場所」

六花は数秒考え込む。

そして。

「……給仕の方はいないのですか?」

俺も翼も笑い転げてしまった。

碧も珍しく肩を震わせている。

本人だけが本気だった。

「いねぇよ」

「えっ」

「自分で買う」

「自分で?」

「自分で」

六花があまりにも驚くから、まるで俺たちが原始時代の生活を説明しているような錯覚に陥った。現代の常識なのに。

「では注文も自分で?」

「当たり前だろ」

「席への案内は?」

「ない」

「配膳は?」

「ない」

「お会計は?」

「自分」

「食器は?」

「返却口」

六花は完全に固まった。

そして。

「大変ですね……」

真顔で言った。

俺はとうとう吹き出した。

「お前、マジで面白いな」

六花がむっとする。

「笑わなくても良いではありませんか」

「だって面白いし」

「私は真剣です」

「知ってる」

だから余計に面白い。

普通のお嬢様ならフードコートなんて行かないとか駄々を捏ねそうだし、こんなに庶民文化に興味を持たないだろう。

でも、コイツは妙に素直で、綺麗なブラウンの双眸を瞬かせながら俺にフードコートについて質問している。

純真無垢。

この言葉がこれほど似合うお嬢様は、日本では六花くらいだと思う。

だから一緒にいて楽なんだろうな。

そんなことを考えていると、六花が小さく呟いた。

「でも楽しみです」

六花は周囲を見渡しながら笑った。

「私、こういう場所に来たことがありませんから」

その笑顔は本当に嬉しそうだった。

たったフードコートで。

たったショッピングモールで。

普通の高校生なら当たり前のことに。

こんなに目を輝かせる。

その姿を見た瞬間。

俺は少しだけ胸の奥がざわつくのを感じた。

たぶん、俺は思っていた以上に、西園寺六花という女に興味を持ち始めていた。
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