財閥令嬢の私が、三つ子の不良御曹司に世界を教えられるなんて
その姿を見た時。

雅臣はふと思った。

もしこの子が本当に裕作の言うような我儘な令嬢なら、

とっくに泣き喚いている。

怒鳴っている。

帰ると言っている。

しかし六花はそうしない。

ただ頑張っている。

父親に命じられたから。

それだけの理由で。

雅臣は小さくため息を吐いた。



可哀想に。



初めてそう思った。

そして同時に。

自分は間違っていたとも思った。

裕作の話だけを聞いて、

会ったこともない娘を勝手に決めつけていた。

実際に会ってみれば。

六花は暴力で矯正されるべき子ではない。

むしろ、暴力など受ける理由がどこにも見当たらなかった。

雅臣は窓から目を離した。

そして決める。

少なくとも。

この屋敷にいる間だけは。

自分が味方になろう。

あの子には味方が必要だ。

そう思った。

そして三日目の朝。

雅臣は早速行動に移した。

朝食後。

リビングに六花と三兄弟を集める。

四人とも嫌な予感がしている顔だった。

雅臣は満面の笑みで言った。

「今日はみんなでショッピングモールへ行っておいで」

沈黙。

翼が眉をひそめる。

蓮が露骨に嫌そうな顔をする。

碧は無表情。

六花だけが首を傾げていた。

「ショッピングモール?」

雅臣は頷く。

実は六花も三子も似ている。

全員世間知らずなのだ。

買い物と言えば高級百貨店。

外食と言えば高級店。

一般家庭が利用するような施設に行った経験がほとんどない。

だからこそ、一度くらい行くべきだと思った。

社会勉強にもなる。

そして何より。

仲良くなるきっかけにもなる。

雅臣は財布から封筒を三つ取り出した。

そして息子たちへ渡す。

「六花さんに服でも買ってあげなさい」

「一人五万円ずつ」

翼が顔をしかめる。

蓮が驚く。

碧は封筒を見つめる。

そして六花は慌てた。

「そ、そんな」

雅臣は笑う。

「遠慮しなくていい」

雅臣は知らない。

この何気ない提案が、六花と三つ子の関係を大きく変える最初のきっかけになることを。
< 45 / 184 >

この作品をシェア

pagetop