君の隣で、私になれた


ーーー翌朝。


羽田空港。


「おはようございます!」


クルーラウンジ。

今日のブリーフィング。

機材確認。

乗務員紹介。


今日もいつも通り。

「今日もよろしくお願いします!」

笑顔で挨拶をする。


同期も。

先輩も。

副操縦士も。


「よろしくね」

みんなが笑う。

私も笑い返した。



フライト開始。


ドリンクサービス。

「お飲み物はいかがでしょうか?」

同世代の男性のお客様。

「じゃあコーヒーで」

「かしこまりました」

自然に笑う。


その瞬間。

『男全員に笑う必要ある?』

頭の中で湊の声が響いた。


「……。」

手が止まる。

笑顔も固まる。


「お姉さん大丈夫?」

「あ……!」

我に返る。

「申し訳ございません」

慌ててコーヒーを用意する。


サービスを終えて。

ギャレーへ戻る。


「成瀬」

先輩CAだった。

「具合悪いの?」

「え?」

「今日ちょっとぼーっとしてる」

「疲れてる?」

「……大丈夫です!」

反射的に笑う。


でもその笑顔は。

自分でも分かるくらい。

ぎこちなかった。


「そう?それならいいけど…」

「お客様の前では出さないようにね」

「それは絶対に気を付けて」

「はい、すみません」

私は頭を下げる。

先輩に注意されてしまった。



ーー休憩時間。


鏡を見る。

制服姿の自分。


笑ってみる。

「……。」

笑えてるはずなのに。

どこか違う。



ーーフライト終了。


今日も無事に終わった。

「お疲れさまでした!」

いつも通り。


でも。

胸の奥だけが重かった。


帰り道。

スマホが震える。


ーー湊。

『今日もお疲れ』

ーー莉桜。

『ありがとう』


返信する。

画面を閉じる。


「……。」

笑顔はこの仕事で。

一番大切なものだった。


なのに。

笑うたびに誰かの顔色を。

気にするようになってしまった。


仕事なのに。

仕事のはずなのに。

少しずつ。

“私らしく”笑えなくなっていた。



< 234 / 308 >

この作品をシェア

pagetop