わたしのこと、まだ好きですか?
大好きな幼馴染
ここは田舎の村。神様が住むと言われる山の隣にある。基本的に村人たちはこの山には入ってはいけない、ご禁制の場所として厳しく律せられている。
神霊の効果というより、崖などの危険な箇所が多いという理由と思われる。川で泳ぐとカッパに引きずり込まれるから、この流れの速い川では泳がないように、という危険な場所としての注意喚起と同じ理屈である。
その神聖なる山の頂きに、もうすぐ中学生だという僕と幼馴染の加代が探検に来ていた。小学校の卒業、ピッカピカの中学生になる前に最後の悪戯というか、二度と経験が出来ないだろう冒険に出ようと二人で話し合って遊びに来た。
「か、加代~~~!!!」
十メートルほどの崖の下に消えた岸田加代に向かって声を掛けるが、彼女は反応を全く示さない。
「加代っ、加代、大丈夫か、今行くから待ってろ、気を確かに持て、僕の声が聞こえるか? 返事してくれ」
『……』
加代からの返事はなかった。気絶しているのだろう。僕は周囲を見渡して崖下に降りられそうな所を探した。
ほぼ垂直に切り立った崖、手ごろな太さの木と木を手で握って少しでも下に降りようとしたものの、二メートルも下がれば足場と木の間隔などが小学六年生の風間圭一には難しく、下手をすれば自分も落下してしまう状態だった。中には尖った枝があり、跳ねて圭一の顔を激しく傷つけた。
「くっ! 駄目だ。降りられない。加代、死ぬな、待ってろ。助けを呼んでくる」
『……』
もう降りられない、無理だと三メートルほど下った場所から再度崖を登り始め、どうしようかと圭一は考えていた。あくまで小学生である。真っ当な考えをするには、さかまくアドレナリンの支配下にある圭一の脳は正常な判断をする機能を保持していなかった。
「とうさん、かあさん、加代のおじさん、警官のおっちゃん、小学校の先生……。ダメだ、怒られる。きっと今までで一番怒られる。どうしよう……、崖を降りる道をもう一度探してみよう」
崖を降りて加代を見つけたとしても、加代を背負ったとしても崖上には上がれない。更に下っても川が流れており、その先は五メートルぐらいの落差がある危険な滝壺になっている。
しかし圭一は合流さえすれば何とかなると考えていた。先のことは考えられない精神状態だった。
『待つがよい』
何者かの声が直接頭に響いた。
『そのままだと、お主の大切な幼馴染が死ぬぞ』
「だ、だれ?」
『わしじゃ』
◇
【中学三年生の十二月初旬】
「ふぅ~」
教室で放課後を目前に控えた俺は溜息を吐いた。あの神との約束が心に重く圧し掛かる。
俺はイジメに遭っていた。学級委員長の大変かわいい顔を拳で殴って傷をつけた男として。
放課後になったとたん、イジメが始まる。小学校の頃から何年も続いていた。俺は窓側一番後ろの席に座りながら、かつて仲が良かった幼馴染である岸田加代の後姿を眺めていた。
『おい風間、お前みたいなクズが俺の加代を目で追いかけるな』
声を掛けてきたのは吉田太一であった。現在、加代と付き合う恋人同士だ。
(どうして、こうなったんだろうな……)
俺は、またため息を吐く。
吉田の方に顔を向けて
「すまん、気をつけるよ」
と寂しそうに言った。俺が寂しそうにしたのを、俺が注意を受けて反省しているように見る太一は、
『俺という彼氏としてはな、大切で可愛い恋人を下品な色眼鏡で見られるだけでも気持ち悪いんだよ。風間、いくら幼馴染だと言っても目で追って記憶に残すな。それとも何か、夜のオカズに加代を使うつもりなのか?』
そう言って満足げに一瞥し、教室の前の方で佇んでいる加代の方へと歩いて行った。加代は無言で太一の左腕を取り、身体をくっつけながら教室から出て行った。一言『いじわるをケイくんに言うのは止めてあげて』とも言わず、学級委員長としても無言であり、幼馴染という関係性でも一見冷たく感じることだろう。
唯一の救いとしては、加代は圭一の方をチラチラ見て、同情や哀れみ、悲しそうな眼をしていることで、決して敵対するように睨んだり、蔑んだりはしないという事だった。
ただ加代の心の中までは圭一には分からなかった。
(今のうちに帰るか)
他のクラスメイトの男子たちに絡まれ、イジメられる前に急いで教室を出た。
(あと三週間、もうすぐ俺は死ぬ。クリスマスの日が最後だからな、もうすぐ、この苦痛からも逃れられる……)
自宅の部屋に帰ってから、俺は小学六年生から恒例となった日記をつけ始めた。毎日までは日記をつけていない。それでも、すでに十五冊目になっている。
さすがに今月死ぬとなると心穏やかには過ごせなくなっていた。
神霊の効果というより、崖などの危険な箇所が多いという理由と思われる。川で泳ぐとカッパに引きずり込まれるから、この流れの速い川では泳がないように、という危険な場所としての注意喚起と同じ理屈である。
その神聖なる山の頂きに、もうすぐ中学生だという僕と幼馴染の加代が探検に来ていた。小学校の卒業、ピッカピカの中学生になる前に最後の悪戯というか、二度と経験が出来ないだろう冒険に出ようと二人で話し合って遊びに来た。
「か、加代~~~!!!」
十メートルほどの崖の下に消えた岸田加代に向かって声を掛けるが、彼女は反応を全く示さない。
「加代っ、加代、大丈夫か、今行くから待ってろ、気を確かに持て、僕の声が聞こえるか? 返事してくれ」
『……』
加代からの返事はなかった。気絶しているのだろう。僕は周囲を見渡して崖下に降りられそうな所を探した。
ほぼ垂直に切り立った崖、手ごろな太さの木と木を手で握って少しでも下に降りようとしたものの、二メートルも下がれば足場と木の間隔などが小学六年生の風間圭一には難しく、下手をすれば自分も落下してしまう状態だった。中には尖った枝があり、跳ねて圭一の顔を激しく傷つけた。
「くっ! 駄目だ。降りられない。加代、死ぬな、待ってろ。助けを呼んでくる」
『……』
もう降りられない、無理だと三メートルほど下った場所から再度崖を登り始め、どうしようかと圭一は考えていた。あくまで小学生である。真っ当な考えをするには、さかまくアドレナリンの支配下にある圭一の脳は正常な判断をする機能を保持していなかった。
「とうさん、かあさん、加代のおじさん、警官のおっちゃん、小学校の先生……。ダメだ、怒られる。きっと今までで一番怒られる。どうしよう……、崖を降りる道をもう一度探してみよう」
崖を降りて加代を見つけたとしても、加代を背負ったとしても崖上には上がれない。更に下っても川が流れており、その先は五メートルぐらいの落差がある危険な滝壺になっている。
しかし圭一は合流さえすれば何とかなると考えていた。先のことは考えられない精神状態だった。
『待つがよい』
何者かの声が直接頭に響いた。
『そのままだと、お主の大切な幼馴染が死ぬぞ』
「だ、だれ?」
『わしじゃ』
◇
【中学三年生の十二月初旬】
「ふぅ~」
教室で放課後を目前に控えた俺は溜息を吐いた。あの神との約束が心に重く圧し掛かる。
俺はイジメに遭っていた。学級委員長の大変かわいい顔を拳で殴って傷をつけた男として。
放課後になったとたん、イジメが始まる。小学校の頃から何年も続いていた。俺は窓側一番後ろの席に座りながら、かつて仲が良かった幼馴染である岸田加代の後姿を眺めていた。
『おい風間、お前みたいなクズが俺の加代を目で追いかけるな』
声を掛けてきたのは吉田太一であった。現在、加代と付き合う恋人同士だ。
(どうして、こうなったんだろうな……)
俺は、またため息を吐く。
吉田の方に顔を向けて
「すまん、気をつけるよ」
と寂しそうに言った。俺が寂しそうにしたのを、俺が注意を受けて反省しているように見る太一は、
『俺という彼氏としてはな、大切で可愛い恋人を下品な色眼鏡で見られるだけでも気持ち悪いんだよ。風間、いくら幼馴染だと言っても目で追って記憶に残すな。それとも何か、夜のオカズに加代を使うつもりなのか?』
そう言って満足げに一瞥し、教室の前の方で佇んでいる加代の方へと歩いて行った。加代は無言で太一の左腕を取り、身体をくっつけながら教室から出て行った。一言『いじわるをケイくんに言うのは止めてあげて』とも言わず、学級委員長としても無言であり、幼馴染という関係性でも一見冷たく感じることだろう。
唯一の救いとしては、加代は圭一の方をチラチラ見て、同情や哀れみ、悲しそうな眼をしていることで、決して敵対するように睨んだり、蔑んだりはしないという事だった。
ただ加代の心の中までは圭一には分からなかった。
(今のうちに帰るか)
他のクラスメイトの男子たちに絡まれ、イジメられる前に急いで教室を出た。
(あと三週間、もうすぐ俺は死ぬ。クリスマスの日が最後だからな、もうすぐ、この苦痛からも逃れられる……)
自宅の部屋に帰ってから、俺は小学六年生から恒例となった日記をつけ始めた。毎日までは日記をつけていない。それでも、すでに十五冊目になっている。
さすがに今月死ぬとなると心穏やかには過ごせなくなっていた。