レディ・マーメイド
黒木からは、マメに連絡が入る。

樹莉を無事にパレ・ド・フローラに送り届けたこと、不審な人物は見当たらないこと。

支配人はすっかり平常モードで、他の従業員も大してあの件は気にしていないことなど。

「わかった。とにかく樹莉から目を離さないでくれ」
「承知しました」

そして亜紋は一人考えを巡らせた。

(金盛が須藤を金で動かし、海外のロイヤルクレストを大量キャンセルさせて営業妨害しているとして……。証拠を残さずに報酬を受け渡すとしたら、どうする?)

直接会うのは危険だ。
足がつかない匿名での送金は可能だろうか?

(もしくは、一見どうってことはない落書きに見せかけて、金銭の受け取り方法を指示するとか?)

具体的な内容はひとまず置いておき、そう仮設を立ててみる。

(パーティー会場に居合わせながら敢えて接触せず、それでいてなにかの指示書を受け渡していた。だが今回はそれが上手くいかなかった。会話をするつもりはなかったが、ロビーで揉めていたのはやむを得ず問い詰めるしかなかったからだろう。恐らくは、あるはずの物が消えていたからだ)

ゴミ置き場やバンケットスタッフのロッカーを探ったということは、やはりそれは紙ナフキンか。

しかも樹莉が一番疑われている。

(ということは、その紙ナフキンを置いた時、近くにいたのが樹莉だったのだろう)

樹莉が持ち去ったと疑われているが、樹莉にその自覚はない。

しかも樹莉を襲った男は「どこに隠した?」と樹莉に迫っている。

まるで樹莉が、それがなにかをわかっていて、証拠として押収したかのように。

そこまで考えてハッとする。

(もしや金盛と須藤は、自分たちが疑われていると薄々感じていたとか?)

黒木が「金盛社長が怪しい」と睨んだのが2週間前のこと。

そして直近のあのパーティーで動向を探ることにしたのだった。

もしかするとそれを向こうも察して、警戒していた。

もしくは今後の対策を練っていたとか?

(そのやり取りが上手くいかなかったから、樹莉を俺達の手先だとでも疑ったのだろうか。証拠を握られたと)

その可能性は充分ある。

(樹莉が、狙われている。口封じの為、あとは俺達を脅す為……)

背筋がスッと寒くなった。

(なんとしても樹莉を守り、早急に解決しなくては)

神経を研ぎ澄まして、亜紋は懸命に頭を働かせた。
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