レディ・マーメイド
「先程のパーティーのゲストの方でいらっしゃいますよね?」
そう言うと男性は前を見たまま短く「ああ」と返事をする。
「本日は当ホテルをご利用いただき、誠にありがとうございました」
「そんな呑気な挨拶をするとは余裕だな」
樹莉は少しムッとする。
「お客様だったとわかった以上、お礼を述べるのはスタッフとして当然です」
「見上げた心構えだ。うちのスタッフも見習わなければ」
うちのスタッフ?と、今度は首を傾げる。
そのうちにハッとして樹莉は目を見開いた。
「あなたは、まさか、ホテル『ロイヤルクレスト』の?」
黙ったまま微動だにしないのが、肯定しているということだろう。
今夜のパーティーで前方のゲスト担当だった静香達が色めき立っていたのだ。
「九條亜紋がいる!」
「ほんとだ。ひゃー、かっこいい! 生で初めてお目にかかったわ」
樹莉は、ん?と首をひねりながら訊いてみた。
「そんなに有名な方なんですか? 芸能人とか?」
「樹莉ちゃん、知らない? 世界中にその名を轟かせる超ハイクラスなラグジュアリーホテル 『ロイヤルクレスト』の帝王よ」
「えっ、ロイヤルクレストの?」
もちろん樹莉もそのホテルは知っている。
客室は全てがスイートルーム仕様で、専任のコンシェルジュが滞在のお世話をする、まさにセレブリティの為のホテルだ。
お値段もハイクラスで、樹莉はロビーラウンジさえ利用したことがない。
一歩足を踏み入れるにもドレスコードがあるのだ。
「もちろんロイヤルクレストは知ってますけど、帝王とは?」
あだ名かなにかだろうか。
そんな大げさな、と樹莉は思った。
「ロイヤルクレストが、九條一族の経営するホテルだってことは知ってるでしょ? 九條亜紋は、九條グループの現会長の孫で、社長のひとり息子。つまり御曹司なの。今は、確か32歳かな? 肩書は専務取締役だけど、実質的な経営者のトップ。彼の手で世界中のホテル ロイヤルクレストを全て動かしているって噂よ」
ひえっと受理は肩をすくめる。
それはまさしく帝王だ。
(そんな人がこの会場に? よかった、私の担当エリアじゃなくて。なにか粗相しちゃったら大変だもんね)
興奮を抑えつつ前方に向かう先輩達を見送り、樹莉は後方エリアのサービスに集中していた。
そう言うと男性は前を見たまま短く「ああ」と返事をする。
「本日は当ホテルをご利用いただき、誠にありがとうございました」
「そんな呑気な挨拶をするとは余裕だな」
樹莉は少しムッとする。
「お客様だったとわかった以上、お礼を述べるのはスタッフとして当然です」
「見上げた心構えだ。うちのスタッフも見習わなければ」
うちのスタッフ?と、今度は首を傾げる。
そのうちにハッとして樹莉は目を見開いた。
「あなたは、まさか、ホテル『ロイヤルクレスト』の?」
黙ったまま微動だにしないのが、肯定しているということだろう。
今夜のパーティーで前方のゲスト担当だった静香達が色めき立っていたのだ。
「九條亜紋がいる!」
「ほんとだ。ひゃー、かっこいい! 生で初めてお目にかかったわ」
樹莉は、ん?と首をひねりながら訊いてみた。
「そんなに有名な方なんですか? 芸能人とか?」
「樹莉ちゃん、知らない? 世界中にその名を轟かせる超ハイクラスなラグジュアリーホテル 『ロイヤルクレスト』の帝王よ」
「えっ、ロイヤルクレストの?」
もちろん樹莉もそのホテルは知っている。
客室は全てがスイートルーム仕様で、専任のコンシェルジュが滞在のお世話をする、まさにセレブリティの為のホテルだ。
お値段もハイクラスで、樹莉はロビーラウンジさえ利用したことがない。
一歩足を踏み入れるにもドレスコードがあるのだ。
「もちろんロイヤルクレストは知ってますけど、帝王とは?」
あだ名かなにかだろうか。
そんな大げさな、と樹莉は思った。
「ロイヤルクレストが、九條一族の経営するホテルだってことは知ってるでしょ? 九條亜紋は、九條グループの現会長の孫で、社長のひとり息子。つまり御曹司なの。今は、確か32歳かな? 肩書は専務取締役だけど、実質的な経営者のトップ。彼の手で世界中のホテル ロイヤルクレストを全て動かしているって噂よ」
ひえっと受理は肩をすくめる。
それはまさしく帝王だ。
(そんな人がこの会場に? よかった、私の担当エリアじゃなくて。なにか粗相しちゃったら大変だもんね)
興奮を抑えつつ前方に向かう先輩達を見送り、樹莉は後方エリアのサービスに集中していた。