レディ・マーメイド
優しい微笑み
「樹莉さま! おかえりなさいませ」
「ただいま、神谷さん」

黒木が運転する車でロイヤルクレストに戻ると、ロータリーで神谷が出迎えてくれた。

「お仕事お疲れ様でした。どうぞお部屋でゆっくり休んでください」
「ありがとう」

ゲストルームに入ると樹莉は、ふうと息をつく。

「ホッとして、なんだか落ち着きます」
「ふふっ、今紅茶を淹れますね。それから樹莉さま、お洋服を揃えましたのでご覧ください」

神谷に言われて、樹莉は「え?」と首を傾げた。

「それって、私の?」
「ええ。亜紋さまに樹莉さまの身の回りのものを揃えるように仰せつかりましたので。ワンピースやドレスだけでなく、樹莉さまが今お召しのようなカジュアルなものもご用意しました」

そう言って神谷は、ウォークインクローゼットに樹莉を案内する。

「ひとまずこちらでいかがでしょう。他にも樹莉さまのご要望に合わせて手配いたします。お好きなブランドなど教えていただけますか?」
「いえ、あの、それより……」

樹莉はズラリとクローゼットに並ぶ服の数々に目を丸くした。

ひと目で値が張るものだとわかる。

清楚なお嬢様ふうのワンピースや、シックなドレス、ブラウスやジーンズもあるが、どれもこれも高級品に違いない。

「とてもじゃないけど、私なんかが着る訳にはいきません」
「……お気に召しませんでしたか?」

肩を落とす神谷に、「いえいえ違うんです!」と慌てて否定する。

「とってもすてきです! でも私には身分不相応なので」
「あら、そんな。樹莉さまにとご用意したのですから、ぜひ……」

その時、壁のドアがノックされて亜紋の声がした。

「樹莉? 俺だ」

神谷がすぐさまドアを開けると、大きな歩幅で亜紋が部屋に入って来た。

「お帰り、樹莉。疲れただろう」
「ただいま戻りました。亜紋さん、またこちらに泊めていただいて、ありがとうございます。すてきな服も用意してくださって」
「いや、まだ足りないだろうからあとで選べ。今、黒木から今日の報告を受けた。もし疲れていなければ、夕食の席で樹莉からも話を聞きたい」
「はい、もちろん」

亜紋は頷くと、腕時計に目を落とす。

「夕食までまだ時間がある。今からエステサロンに行って来い」
「……エステ、ですか? 私が? それは、なぜ?」
「俺が予約を入れたからだ。じゃあ、あとで」

そう言い残し、亜紋は部屋を出て行った。
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