レディ・マーメイド
「樹莉!」

30分後、スタッフに案内されてオフィス棟の会議室に入って来た亜紋は、すぐさま樹莉に呼びかけた。

支配人と向き合い、黒木と並んでソファに座っていた樹莉が立ち上がる。

「亜紋さん」
「樹莉、無事か?」
「はい。黒木さんのおかげで助かりました」
「よかった……」

亜紋は樹莉の身体をギュッと抱きしめてから、支配人に挨拶する。

「ご無沙汰しております、飯島(いいじま)支配人」
「こちらこそ。ところで亜紋くん、君は私の知らないことを知っているようだね。2週間程前に、うちの女性更衣室とゴミ置き場が荒らされた件で」

亜紋は姿勢を正してから深々と頭を下げた。

「申し訳ありません。私の一存で、飯島支配人に黙っていたことがございます」
「聞かせてもらえるかな?」
「はい」

黒木は亜紋の隣で、やり切れない思いを抱えたまま話に耳を傾けていた。

(もっと俺がどうにかできたんじゃないか。亜紋さんをこんなふうに謝らせたりせず、早急にこの事件を解決できたはずだ)

自分の行いを一つ一つ思い出しながら後悔する。

犯人は男だと支配人が言った時、なぜ疑問に思わなかった?

犯人が捜しているのは紙ナフキンではなくコースターだと樹莉が気づいてくれたのに、なぜそこからすぐに行動に移さなかった?

金盛と須藤が繋がっていることも、樹莉を襲った犯人にも辿り着いておきながら、どうしてやすやすと泳がせていた?

悔やんでも悔やみ切れない。

樹莉を再び危険な目に遭わせたことと、亜紋にこうして頭を下げさせたことが自分で許せなかった。

グッと拳を握りしめ、気を引き締める。

支配人は亜紋の話を聞き終えると、大きく息を吐いた。

「大まかな事情はわかりました。今、女子更衣室は立ち入り禁止にしています。これから警察を呼びますので、皆さんにも立ち会っていただきたい」
「はい」

亜紋に続き、黒木と樹莉も頷いた。
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