レディ・マーメイド
「結論から言います。小早川さんを襲った男と、更衣室に侵入した女は、どちらも身柄を拘束しました。女に窃盗と万引きの前科がありましてね、更衣室の窓に残された指紋から割り出しました。その女の供述で、グルだった男の身元も判明。二人は愛人関係でした。これから事情聴取します。以上です」

翌日。
ロイヤルクレストに説明にやって来た菅井はそう言って話を終えた。

えっ、と樹莉は呟く。

亜紋と黒木も、同じように驚いた様子だった。

「それだけ、ですか?」
「そうです」
「金盛と須藤は? 犯人達を裏で手引きしていたはずですが……」

すると菅井は大きなため息をつく。

「罪に問えません。なにせ、犯人達には1円も金を渡していませんから」
「ですが、昨日お話した海外のプライベートバンクについては? 恐らく須藤が金盛から暗号を手に入れ、口座にある金を引き出し、そこから報酬として犯人達に渡すはずだとお話しましたが……」
「それはあなたの推理にすぎないでしょう、九條さん。金盛というその社長が、海外の銀行に口座を開設していた。その事実だけしかないんですよ?」
「では、犯人の男がSNSにライバルホテルの低評価をつけて、見返りにスイートルームに宿泊させてもらっていた点は?」
「それだって金銭の授受はない。確かに『井上』という偽名で予約され、住所も電話番号もでたらめでしたよ。宿泊代はこのご時世に、なんと現金書留で前払い。まあ、そこに金盛が絡んでいたとしましょう。プライベートバンクの金も報酬のつもりで入金していたと。けどね、九條さん。そんな個人のちっぽけな金で、国家同士がやり取りなんてすると思いますか? 日本が諸外国に『はした金だが調べてくれ』と頭を下げるとでも?」

返す言葉がない。
樹莉も、亜紋も黒木も、押し黙るしかなかった。

「では、そういうことで。我々警察の役割は果たしましたから」

そう言って菅井は去って行った。
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