レディ・マーメイド
「黒木、頼みがある」

執務室で、亜紋は黒木に切り出した。

「はい、なんなりと」
「パレ・ド・フローラで使用しているコースターを1枚もらってきてくれ。それから直近で、ホテルと旅行関係者が集まるパーティーを調べてほしい」
「ただちに」

一礼してから黒木はすぐさま身を翻す。

亜紋は一人神経を研ぎ澄ませ、やるべきことを考えていた。

1時間程して戻って来た黒木から、亜紋はコースターを受け取る。

中央にパレ・ド・フローラのロゴと、きれいな花の模様が描かれていた。

(樹莉……)

ふと思い出して胸が切なくなる。

「亜紋さん、パレ・ド・フローラの支配人からその後の様子を聞いてきました。更衣室とゴミ置き場が荒らされた件はすっかり落ち着き、お客様にも影響はなく、ホテルはいつものように盛況とのこと。樹莉さんも以前と同じように、明るく乗務をこなしているそうです」
「……そうか」

言葉少なに亜紋は答える。
樹莉が元気そうでよかった。

「それから次回のパーティーですが、来週ゴールデンワールドホテルで祝賀会が開かれます。ニューヨークに新しくホテルをオープンさせるとのことで、その発表を兼ね、ホテルや旅行関係者を招くパーティーです。恐らくサンセットトラベルの須藤社長も現れるかと。参加する場合、連絡の締め切りは明日まで。いかがなさいますか?」

亜紋は間髪入れずに黒木に命じた。

「出席の連絡を」
「承知いたしました」

必ずその日に金盛と須藤を問い質し、罪を認めさせてみせる。

亜紋は両手の拳をグッと握りしめた。
< 58 / 100 >

この作品をシェア

pagetop