喫煙所で昇る恋の紫煙



 すぅ……チリチリ……

「はぁ~……」

 仕事を終え、職場裏の喫煙所でひとり煙草を吸う。

「あ~……やっぱ、仕事終わりの一服は身に染みるわ。煙草サイコーやめらんねー」

 とかなんとか、しょーもないことをひとりごちる。

 すぅ………

 雨風に晒されてぼろぼろになった白いプラスチックの椅子に座りながら、煙草を吸う。ニコチンを吸い込む度、体内が癒されるのと同時に、内臓が悲鳴をあげてるような気がするけど……そんなの知らない。煙草を吸わないとこの世界()はやってけないくらい、ストレスばかりの日々だ。

 ぶわ~っと、煙草を吸って思いきり煙を吐き出す。鈍色の空に、紫煙がもくもくと昇って消えていく。

「はぁ~……」

 溜め息を吐くように、煙を吐き出す。すると。

「お疲れさまです、西尾さん」

 裏口が開き、その扉の隙間から囁くような声で俺の名前を呼んだ。北見さんだ。
 北見さんは、俺の五つ下の後輩だ。

「お疲れ~ごみ捨て?」

 と、俺は彼女に煙が行かないように、気持ち彼女に背を向けながら聞いた。

「いいえ。私も帰る前に一服したいな……って」

 そう言いながら、北見さんは花柄のポーチから俺と同じ銘柄の煙草を取り出し、俺の隣の椅子に座りそして……

 カチッ……すぅ……

「ふぅ~……」

 と、鈍色の空に向かって紫煙を吐き出した。そんな北見さんの横顔に、何故かドキッとしたのと同時に、ある疑問がすぐさま浮かんだ。

「いや……あれ?北見さんって煙草を吸う人だったっけ?」
「いえ、最近吸うようになりました」

 そう言いながら、北見さんは自身の白くて細い指に挟む煙草の先端の赤い炎を見ながら、細い声で言った。

「そうなんだ。ありゃりゃ、煙草なんて体に毒なだけなのに……まあ、俺はそんなの知らねと思いつつも吸うけどね」

 そう言いながら、俺はぶわ~っと煙を吐いた。すると北見さんはそれを見て、くすくすと笑った。

「ふふっ、西尾さんは昔から煙草吸ってるんですか?」
「んーそうだねー……社会人になってしばらくしてから吸うようになったんだっけ?10年前……24才だったかな?毎日仕事のストレスがハンパなくてさ、それを和らげるものが欲しくて、煙草に手を出しました。そしてそっからはも~“やめられないとまらないカーッぱえ○せん”って感じだよねー」

 と、俺はしょーもないことを言いながら、とんとんと、灰皿に煙草の灰を落とす。するとまた、北見さんがくすくすと笑う。

「ふふっ、西尾さんって面白い人ですね」
「え~そう?ただのヤニカスがテキトー言ってるだけだよ。てか、北見さんは何で煙草吸おうと思ったの?やっぱストレス?」

 と、灰皿に煙草を揉み消すと、もう1本煙草を取り出して口に咥え火をつけた。すると北見さんは、なんだかモジモジしながら、俺をチラッと見てふいっと顔を背け、煙草を思いきり吸い込み、ごほごほと咳き込んだ。

「おいおい大丈夫……っと」

 反射的に北見さんの背を擦ろうとしたけど、脳内に【セクハラ!!】の言葉が濃く浮かび、背を擦ろうとして伸ばしかけた手で自身の頭をかいた。
 少しして、北見さんの咳が止まると。

「……今、背中擦ろうとしました?」
「え?あ……いや」

 俺は北見さんにそう言われ、ドキッとする。別にやましい気持ちなんてこれっぽっちもなかったけど、これじゃまるで、やましい気持ちがあったようにしか見えない。すると俺まで、煙草の煙で噎せて咳き込み出す。

「あ、すみません。セクハラとか言いたかったわけじゃなくて……その、むしろ擦ってほしかったな~……なんて……」

 そう言って北見さんは、こてんとちいさく頭を傾けてはにかんだ。

「さっき……『何で煙草吸おうと思ったの?』って西尾さんが聴いてきた質問の答え……西尾さんともっとお話ししたいなって思って。煙草吸えるようになったら、西尾さんともっとお話しできるようになるかな~……なんて思った……からです」
「……え?」

 チリチリ……と、北見さんの白くて細い指に挟まれている煙草が、ゆっくりと灰になっていく。ある程度灰が伸びると、ぼろりと灰が地面に落ちる。
 俺の煙草も、吸われることなく灰になって地面に落ちていく。
 そして、北見さんは俺の顔を見てまたはにかむと、細くて小さな声で言った。

「……私、西尾さんのことが好きです」




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