聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。
第2章
翌朝、リディアは普段より早く目が覚めた。
窓の外はまだ薄青く、鳥の声もまばらだった。眠れなかったわけではない。ただ、目を閉じると昨夜の光景が繰り返し浮かんで、そのたびに心臓が妙な動き方をして、気づけば夜明け前に目が開いていた。
琥珀色の目。低い声。白い手袋越しに伝わった温度。
リディアは天井を見上げて、小さく息を吐いた。
おかしな人だと思う。
初対面でいきなり「聖女の力がないことを恥じているか」などと問うてくる人間が、まともなわけがない。社交の場で言っていい言葉と悪い言葉の区別がついていないのか、あるいはそんな区別を最初から必要と思っていないのか。
どちらにしても、関わり合いになるべき相手ではない。
そう思うのに、あの目が頭から離れなかった。値踏みでも侮蔑でもなく、ただまっすぐにリディアを見ていたあの目が。
リディアは起き上がり、窓辺の糸車の前に座った。指先に糸を巻きつけ、ゆっくりと回し始める。こうしていると落ち着く。子どもの頃から変わらない習慣だった。聖なる光は宿らなくても、糸を触れていると、ざわついた心が少しずつ凪いでいく。
朝食の時間になっても、母は昨夜の夜会について何も言わなかった。それがかえって落ち着かなかった。マリエル・ユーリホキラスは普段、娘の一挙一動に細かく口を出す人だ。
その母が何も言わないというのは、何かを待っているということだ。
何を、とリディアにはわかっていた。
だからその何かが届いたとき、リディアは驚かなかった。
午前の中頃、ソフィが少し上気した顔で部屋に入ってきた。