聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。
リディアは思わず小さく笑ってしまった。笑うつもりはなかったのに、こらえきれなかった。こんな人だったのか、という驚きと、妙な可笑しさが一緒に込み上げてきた。
アルシェがリディアを見た。その琥珀色の目が、夜会の夜とも工房で初めて会った日とも少し違う色をしていた。柔らかい、とは言えないが、とげのない目だった。
「笑うのか」
「笑いました」
リディアは糸を持ち直した。
「初めて閣下のおかしいところを見ました」
「おかしいか」
「えぇ、少し」
アルシェはそれ以上何も言わなかった。だが隣から離れなかった。
リディアは糸を指に巻きながら、不思議と緊張が解けていくのを感じた。見られていることへの意識は変わらなかったが、それが居心地の悪さではなく、別の何かに変わっていた。
二時間ほどかけて、新しい布を織り上げた。